環境汚染等防止対策委員会の課題

  環境汚染等防止対策委員会委員長  大佐々邦久

 本委員会は各地区にある同種の委員会と異なり、全学に渡る委員会であるため、一般的になじみが薄い。そこで、委員会の役割を、規則集により調べると、以下のような項目が上げられている。

第2条 委員会は、学長の諮問に応じ、次の各号に掲げる事項を調査審議する。
(1)汚水及び有害物の排出に関する事項
(2)汚物及び廃棄物の処理並びに悪臭に関する事項
(3)騒音に関する事項
(4)電波障害に関する事項
(5)環境汚染等防止のための諸施設に関する事項
(6)その他環境汚染等の防止に関する事項
(山口大学環境汚染等防止対策委員会規則集より)
 この条項を読むと、本委員会の守備範囲はかなり広い。今回、委員会が招集された主な目的は、項目(1)、(2)に関連してである。具体的にはダイオキシン類の排出抑制基準等の改定に伴い、吉田地区の焼却炉廃止問題が取り上げられ、調査審議された。しかし、このことは、同時に同地区におけるゴミの分別回収やリサイクル問題およびゴミの減量化にも対処せざるを得ないことになった。その他、焼却炉廃止に伴って廃棄物処理を外部委託した場合に起こる問題や実験動物焼却炉からの悪臭問題などが取り上げられた。これら諸問題の解決に至る過程は、それぞれの地区における本誌中の詳細なレポートを読んで頂くとして、本稿では、全学に渡る課題について触れる。
 本学におけるこのような問題の解決を複雑にしているのは、他の問題でも同じであるが、キャンパスが吉田地区(山口市)、常盤地区(工学部、宇部市)および小串地区(医学部および医療技術短期大学部、宇部市)に分かれていることである。たとえば行政区(市)により、廃棄物やリサイクル問題に対する対処法が異なるため、それぞれの地区における対策にも当然影響が及ぶ。また吉田地区のように、様々な部局が混在している場合には、部局により問題解決に対する熱意には温度差がある。これは、実験系と非実験系では、研究に伴って排出される有害物や廃棄物の内容や量に大きな差があることを考えればやむを得ないことである。同様に常盤地区、小串地区でも、一枚岩ではないであろう。もちろん、このことは教職員個人の環境問題に対する熱意のほどを云々しているわけではない。
 以上、前置きが長くなったが、結局、最初に取り上げるべき問題点は、本委員会の構成である。規則によると、委員会は各学部、医学部付属病院及び医療技術短期大学部からの代表である教官各二名で組織するとある。しかし地区毎の実態を考えれば、吉田地区、常盤地区及び小串地区のそれぞれに実行機関としての環境汚染等防止対策委員会を置き、前記の第2条に掲げられた具体的な条項に関しては、できるだけ当該委員会に任せるのが望ましい。その上で、全学の委員会は三地区の調整機関として、できるだけ環境問題に詳しい地区毎の代表者各二名程度で構成し、三地区の方針の統一あるいは理念に絞って審議すべきと思われる。
 全学の委員会の役割として、具体的に、どのような課題が考えられるだろうか。以下のことは、あくまでも私見であるが、まず大学の環境に関わる諸課題、すなわち上記の規則第二条に掲げられた項目に加え、リサイクルやゴミの減量化などについて、全学的に詳細な調査を行い、問題点を洗い出し、その上で国及び地方の諸規則を参考にしつつ、大学として率先して守るべき様々な基準を提示することにあろう。もう一つの課題は、学生に対する環境教育について、全体の立場からの提言を行うことである。しかし、むしろ、このような大上段に構えた物言いより、まず塊より始めよ、足下の教育から始めるべきかも知れない。学内外における学生の振る舞い、たとえば吸い殻やゴミのポイ捨て、必要もない車やオートバイの乗り入れや運転マナー、アパートでの騒音などに対する苦情は後を絶たない。足下の環境やマナーから地球環境まで、何より入学当初の学生に対する教育(しつけ)が望まれる。
 大学は内部で働き学ぶ人数からすれば、生活スタイルの差はあれ、小さな町ほどの規模を持つコミュニティである。したがって、人間すべての営みについて資源の消費を抑え、廃棄物を最小化することにより、環境への負荷をゼロに近づけるという「ゼロエミッション」社会への試みは、当然、率先して行う必要がある。循環共生型社会を目指すゼロエミッションアプローチ(zero emission approach)とは、できるだけ廃棄物を出さないことやリサイクルシステムを確立することであり、たとえば生活者から排出される都市ゴミをエネルギーに変えたり、あるいは有価物を回収し再利用することであったり、別々の産業同士で廃棄物の循環利用を行ったりすることである。これに対して、従来型の「エンド・オブ・パイプ」アプローチ(end-pipe approach)では、廃棄物の処理自体が目的であるため、都市ゴミあるいは産業界からの廃棄物の処理などに対して、高度の技術を採用したとしても、資源消費の低減あるいは廃棄物の減容化には限界があろう。
 社会のゼロエミッション化への流れに対して、大学として、どのような協力が可能であろうか。残念ながら、多くは期待できない。これは、大学が典型的な消費共同体であり、物・エネルギーの節約などを除けば、廃棄物の循環利用を行う手段を持たないからである。また持てたとしても、規模からして、非効率的なものにならざるを得ない。したがって廃棄物などは、既に多くの提言があり、また一部実施されているように、充分な分別収集を行い減量化を進めた上で、外部の廃棄物処理産業、将来的にはいわゆるゼロエミッションセンターに任さざるを得ないであろう。ゼロエミッションセンターは、従来型の単なる廃棄物処理を役割とするのではなく、静脈産業(廃棄物処理)から動脈産業(資源・エネルギー供給)への転換を済ませた形態、すなわち都市ゴミ焼却に伴う熱回収、下水熱利用ヒートポンプ、生ゴミのコンポスト化およびメタン発酵などの技術を駆使し循環利用を図るとともに、物・エネルギーの流れのハードからソフト面までのサポートを行うことを任務とした組織である。
 大学内において、まず重要なのは、教職員および学生ともにゼロエミッションの概念をあらゆる行動の規範とすることである。そうすれば、現在学内で抱えている様々な課題は自然に解決の方向に向かうと思われる。また、このような雰囲気が充分醸成されてきた段階に至って始めて、「山口大学環境宣言」のような形で、その成果を外部に発信することが可能となろう。