1.巻頭言「今日の環境問題に対処して


                                    山口大学名誉教授 中西 弘

 本誌編集委員長から原稿依頼を受けたとき、一寸迷った。その任にあらずと。しかし、創刊号からの本誌の立ち上げに参画してきたことや、本学の排水処理センターの設立に関与してきたことなど思い直してみると、Noと言えなくなった。

 公害の撲滅からスタートした環境問題も、地球規模の深刻な問題に発展してきた。
 Sustainable Developmentという概念は、将来の世代が自らのニーズを充足する能力を損なうことなく、現代のニーズを満たすような開発と定義され(国連、環境と開発世界委員会)、生態系を破壊することのない妥当な消費水準を目指すことによって達成できるとされている。しかし、地球の資源、エネルギー、人口の将来を考えるとき、自然エネルギーの利用効率をあげるとか資源の循環、再利用効率あげるとかいった今後の技術開発によって、持続して利用できる資源・エネルギーの枠を広げることができるとしても、資源・エネルギーが制約となる「真の持続可能な範囲」は、もっともっと厳しいものとなろう。

 環境問題の解決には、我々のライフスタイルの見直しが必須条件である。企業の生産活動といえども結局は消費者のためのものであり、生産、消費、廃棄の過程から生ずるあらゆる環境破壊は、究極的にはすべて我々の消費生活に帰するものであることを自覚していなければならない。始めからその豊かさの中に育った世代には、そのは実感としてなかなか理解され難いが、我々の生活はあまりにも豊かになりすぎた。省エネ、省資源の生活様式への移行は、現代の環境問題に対処する基本的姿勢でなければならない。  

 廃棄物のゼロエミッション、リサイクル対策、エコライフ、エコビジネスなどは、こうしたライフスタイルを環境にやさしいものにするための目標や姿勢を示したものである。耐久性のある消費財は、すぐ不用になる用途に使用するのではなく、あくまで長持ちを必要とする用途に使用せねばならない。また、リサイクルといっても、それは別なものに加工して再利用するのではなく、あくまでもそのままの状態で再利用することがより省エネ、省資源型である。こうしてみると、現在行われつつあるリサイクルシステムはまだまだ不十分であり、新規投入量を少なくして、消費の過程で長持ちをさせ、できるだけリサイクルさせる必要のない社会の構築がより必要である。 

 ダイオキシン、環境ホルモンなどは今日のホットな課題である。発生するゴミの減量化のために日本では焼却炉(ダイオキシン対策のない炉)で燃やし続け、その結果、日本のダイオキシン発生量は世界一となった。ゴミ処理にお金をかけて焼却処理しているNo1は日本であり、それがが逆に仇となった。やはりこの問題解決の基本は、ゴミを出さないことである。

 昨年のCOP3京都会議において1990年CO2排出量の6%削減(2010年)が、日本の国際公約となった。懸案の環境影響評価法はいよいよ来年6月施行になる。瀬戸内海では、世界の閉鎖性海域の環境施策の模範となるべき「瀬戸内海の新たな環境保全・創造施策のあり方」を策定中である。山口県においては、やまぐち環境創造プラン(山口県環境管理計画)の策定、県内CO2の10%削減を目標にした地球温暖化防止行動プログラムの作成、湖沼の水質保全推進計画の策定などされている。また宇部市では、宇部市環境基本計画の策定、宇部方式による公害追放により国連環境管理計画(UNEP)よりグローバル500賞の受賞(昨年)などある。これらの活動に参加し、環境問題の解決をライフワークとしてしている筆者にとっても喜ばしいことである。

 大学排水処理からスタートした大学の環境保全問題も、環境問題の進展とともに拡大した。公権力に頼らず、学者の提供する科学データに基づき、因果関係を明確して、学識者、行政、企業、住民の4者の話し合いによる自主的な対応により、公害の未然防止を図る地域ぐるみの活動が、環境問題の大先輩である野瀬先生(山口大学名誉教授)提唱の宇部方式である。法的規制がなく、行政の調査資料もなかった時代に、自主的な努力により、降下煤塵日本一という昭和20―30年代の宇部市の激甚公害の追放に成功した宇部方式の精神は、何もなかった当時に比較して、公権力による法規制や調査データが整ってきた今日の環境問題の解決にも生かされている。それは問題解決に対する4者の意識の高まりと協調であり、最近では住民参加の機会が増えている。ここにおいて、環境問題の解決に対する学者の活動が相対的に低下してきており、その反省に立って、環境問題解決に対する研究や教育を通じての学者、大学教官の指導的な役割とバイタリティとが改めて強調されねばならない。この広報誌が大学人の環境保全に対する益々の意識高揚に役立つことを期待しています。


                  (山口県環境審議会会長)