吉田地区の学内ゴミ焼却中止に関連して
経済学部 植村高久
吉田地区では本年6月1日をもって(例外的な1基を除き)、学内でのゴミ焼却を中止し、あわせてゴミの分別収集を強化した。ここではその経緯と問題点を指摘したい。
平成9年12月1日の「大気汚染防止法」の改正によって、「低濃度長期被曝による健康被害が懸念される大気汚染物質のうち排出または飛散を早急に抑制しなければならない物質(指定物質)」にダイオキシンが指定され、合わせて、廃棄物焼却炉が「知事が排出抑制のための勧告等を行う」指定物質排出施設とされた。ゴミ焼却にともなうダイオキシンによる健康被害の懸念がマスコミを賑わせるているなかで、当然の処置であろう。
この法改正にあわせて、文部省は「学校におけるゴミ処理に係る環境衛生管理の徹底について」とする通知を行い。この通知は、ゴミのリサイクル、分別収集と減量化を促すとともに、ゴミ焼却炉については、「代替措置が著しく困難」である場合を除いて、「ダイオキシン類等の有害物質の排出に対する安全性が確認されない限りは、原則として使用を取りやめ廃止すること」という、上述の大気汚染防止法の規制をこえた、強い措置を求めるものだった。
こうした動きを受けて本学では、平成9年12月1日に休眠状態にあった環境汚染等防止委員会が再開され、ゴミ焼却炉の停止とその後のゴミ処理の問題に対処することになった。
まず第一の問題は吉田中央炉であった。吉田地区には計8基のゴミ焼却炉があるが、このうち最大の吉田中央炉は吉田地区の可燃ゴミの大半を集中的に焼却処理してきていた(8年の処理実績は79.6トン、年間稼働日数は244日)。そしてこの炉は大気汚染防止法の規制対象となる処理能力200kg/hをこえた、300kg/hの能力を持ち、そのダイオキシンに対する排出基準は、同法施行後1〜5年の間の暫定基準で80ng/m3以下(1ngは10億分の1g)、その後は10ng/m3以下となる。本学では、10月30日に吉田中央炉のダイオキシン測定を行ったが、その結果は49
ng/m3で、暫定基準は満たしたものの、五年後以後の基準は満たしていないことが明らかになった。そして基準を満たすように炉を改修するためには膨大な費用がかかり、さらに改修された炉の運転にも相当の費用をかけ続けねばならないと予測された。こうした費用の問題だけでなく、文部省通知にも見られるように、小規模な炉でのゴミ焼却じたいが社会的に容認されにくい状況も勘案して、吉田中央炉は停止すべきであるとする方向で検討されることになった。
あわせて大気汚染防止法の規制対象とならない計7基の吉田地区の比較的小規模なゴミ焼却炉についても、停止の方向が決定された。ただし、残りの炉のうち最大である農学部の実験動物のための焼却炉(年間22トンを焼却、100日稼働)は、他の方法では処理が難しいために、必要な措置を講じたうえ焼却を続けることになった。
残った問題は、焼却に代わるゴミ処理の方法である。この点については、吉田地区の各部局で出た可燃ゴミを集約しておき、山口市の清掃工場まで業者に搬出・輸送してもらうという方法で対処することになった。この方法が最も処理が簡単で費用負担が少ないというところから採られたものである。
他方で、ゴミの減量化と分別・リサイクルは社会的に環境問題・ゴミ問題への関心が高まって来つつある現状からみて、大学がおざなりにできない課題だと考えられた。そこで、ゴミの学内焼却を止めると同時に、吉田地区でもゴミのある程度の分別収集を実施することになった(常磐地区では以前から実施されていた)。具体的には、学内の炉を止めた本年(平成10年)の6月1日から、下表のようなかなり詳細な分別収集を実施している。分別は常磐地区で行われているものに準じて、大きく「可燃ゴミ」「不燃ゴミ」「資源ゴミ」に分けられ、さらに「不燃ゴミ」と「資源ゴミ」については、各4つずつのサブ・カテゴリに分かれていて、おのおのについての処理法が決められている。
吉田地区分別収集リスト
可燃ゴミ
紙くず、生ゴミ等
不燃ゴミ
金物
ガラス
プラスチック
蛍光管
資源ゴミ
古紙
空き缶
空きビン
発泡スチロール
分別収集の実施状況は、必ずしも順調に進んでいるわけではない。特定の職員だけが取り扱うような、「不燃ゴミ」などでは、表の処理法が遵守されているだろうが、教官や学生にこの表にしたがった分別収集法はまだ周知されていない。たとえば、古紙等は大学では最も一般的なゴミであろうが、その収集法はほとんど知られておらず、また収集容器も広く設置されているわけではない。教官にさえ、分別収集の意識と具体的な分別処理の方法は徹底していない。ましてや学生に関しては、とくに共通教育棟など目の届きにくい施設もあり、分別収集実施の前後で、とりたててゴミの扱いは変化していないように思える。このままでは分別収集は形骸化してしまいかねない。教職員、学生に対するさらに徹底した広報活動が必要であろう。
さらに言えば、ゴミが分別収集されたとしても、それがただちにリサイクルにつながらないという弱点もある。現状では、せっかく分別された資源ゴミも一部はリサイクルのための回路がない。山口市での処理はプラスチック類も含めて、可燃物を一緒にして燃やすという方法であり、一般にゴミを分別してリサイクルするようなシステムができていないのである。また、再資源化されるゴミにしても、たとえばビンは色ごとに分類したり蓋とは必ず分離しておくなど、それなりに徹底した管理が必要になる。そうした状態に管理するためには、ボランティアのような労力か、かなりの費用がかかる。言い換えれば、そうした費用や労力を負担してまで、ゴミを減量化しリサイクルする必要性は、まだ一般的に認められているわけではない。吉田地区は、大都会の大学に比べてゴミ問題は深刻ではないためであろうが、ゴミ問題への意識・関心の成熟をもう少し待たねばならないのだろうか。