地球環境の修復と微生物
農学部 丸本卓哉
近年、地球環境の悪化と森林資源の減少が急速に進行し、世界的規模で環境修復の必要性が叫ばれている。"環境修復"と一口に言ってもいろいろある。対象とするものも、大気、水、土壌と多様であるが、共通しているものは、その原因のほとんどが人間の活動によって生じたものであると言うことである。いったん環境が破壊されたり汚染されたりすると、その修復には多大な労力と経費を要するため、環境を破壊しないことが一番良いのであるが、人類が生存している限り、環境破壊は残念ながらどこかで必ず生じていると言っても過言ではない。
ところで、20世紀後半になっての化石燃料の大量消費に伴い、大気中のCO2濃度の上昇がきな問題となっている。このままで推移すれば、2100年には地球の温度が2℃上昇し、海水面が50p程上昇するであろうと推測されている。CO2濃度が増大すると、太陽によって暖められた地表からの熱は、一部は宇宙空間に放出されるが、大部分は温室効果ガスによって吸収−再放射され、地表と下層の大気を暖めることになる。温室効果ガスにはメタン、オゾン、亜酸化窒素、フロンなどがあるが、CO2の地球温暖化への寄与率は50%を占めているといわれている。つまり、地球温暖化の主要な原因はCO2濃度の上昇によるといえる。
地球温暖化によって、植物の栽培範囲が広がったり、CO2濃度の上昇による単位面積当たりの収量が増加したりするというメリットが生じる一面もあるが、むしろ、温度上昇による北極および南極の氷の溶解による海水面の上昇や乾燥による砂漠化の増大、また、作物栽培地域の変動に伴う食料生産の減少など、予測できない地球環境の変動による災害の生じるデメリットの方が大きな問題となるであろう。CO2濃度を減少させるためには、大気中へのCO2放出量を抑制するか、大気中のCO2を植物に固定するしかない。現在、世界中で先進国を中心にCO2の排出削減に取り組んでいるが、目標値の達成にはまだまだ時間が掛かりそうである。他方のCO2の固定であるが、草本類に比べ木本類(樹木)に固定されたCO2は、固定される期間が永いことと、木材の利用方法によっては半永久的に固定状態で存在させることが可能であり、森林を再生することは極めて重要である。
温帯モンスーン地帯である日本は、比較的降雨に恵まれており、植生の極層は森林であるが、世界的には草地など森林以外のところが多い。草地でも森林でも、植生があればCO2が固定されるが、裸地のまま放置するとCO2固定量が減ることになる。近年、世界の至る所で砂漠化が進行している。砂漠化が進行するとCO2固定量の最も大きい陸上生態系が、どんどん減少することになる。陸上生態系は大気中の炭素量の約3倍の炭素を貯留しているが、そのうちおよそ6割が土壌圏に貯留されていると考えられる。このことは、土壌1g当たり10億〜100億存在している微生物の菌体中に貯留されている炭素量が極めて大きいということを示している。
土壌微生物のもう一つの重要な役割は、物質代謝の主役であることである。土壌中に微生物が存在しない"死の土"になると物質代謝が滞るばかりでなく、あらゆる生物が生残出来なくなるであろう。このような微生物の物質代謝能を利用して土壌中の汚染物質を、分解除去しようとする"バイオリメディエーション"に関する研究が盛んに行われるようになってきているが、土壌中のダイオキシンも分解できることが分かっており、実用化されようとしている。人類は微生物との共生なしには生きていけないことが明らかであるが、地球環境の保全・修復についても、この際、微生物の力を最大限に利用させてもらうことが必要であろう。