14.大学排水の現状と問題点
1)吉田地区(本部・人文・教育・経済・理,農・教養各学部)
排水処理センター 藤原 勇
山口大学の排水は,生活排水,実験洗浄排水は管路を通して排出される。また特殊廃液(重金属・水銀・シアン)廃液・及び廃棄有機溶剤・写真廃液はそれぞれポリタンクに入れられ,きめられた期日に提出されることになっている。以下に排水の現状と問題点について述べる。
生活排水(吉田地区) 生活排水は,生活排水処理施設で活性汚泥法により処理し,九田川に放流している。問題点としては雨水の流入による処理施設の運転不能になることである。雨水流入を防ぐ手だては今のところない。
実験洗浄排水 実験洗浄排水は,本来酸・アルカリ及び重金属は流してはならないようになっている。しかし,現状では,酸・アルカリが排出基準のpH5.8〜8.6の範囲を越えて排出されることがある。必ず酸・アルカリは中和してpHを確かめた上で放流してほしい。また昨年度は水銀も2回の異常値が観測された。
特殊廃液 特殊廃液は年6回,きめられた期日にセンターへ搬入される。問題点としては,きめられたポリタンク以外の種々のポリタンクに入れられて搬入される。またきめられた量以上にタンク一杯に廃液が入れられている。またシアン廃液がpHの低い酸性の液で搬入されて来る。周知の通り,シアンイオンは酸性中ではシアンガスとなり気化する。廃液の取り扱いには十分注意して搬入してほしい。時々有機物が入り,二層に液が分離しているものがあるが,これは処理できないので引き取ってもらうことにしている。また酸及びアルカリのみの液はセンターに搬入しないで,排出者の責任において適した処理を行ってほしい。
廃棄有機溶剤 廃棄有機溶剤は,第l,2,4石油類にきちんと分けて搬出してほしい。時々クロロホルム層とアルコールの両方が混入し,二層に分かれているものが搬出されることがある。
写真廃液 写真廃液も特殊廃液と同様にポリタンク一杯に入って搬出されて来る。このポリタンクから用務員の人または会計の人が大きなポリタンクに移液する際によく廃液を浴びることがある。この可能性を防ぐためには廃液を満たさないように励行してほしい。
2)小串地区(医学部・附屈病院・医療短大)
医学部 百々 榮徳
小串地区の水質検査成績は別表の通りである。健康に係る有害物質のうち,カドミウム・シアン・有機燐・鉛・六価クロム及びアルキル水銀は7回の検査すべてが検出限界以下で問題はない。砒素は59年6月0.002,6l年6月0.003mg/l総水銀は60年l2月0.0005,6l年l2月0.00l3mg/lの値を示している。いずれも排水基準値以下ではあるけれども,山口大学では特殊廃水は分別して貯留し,後刻本部の廃水処理センターに集めて処理する方式を採用している。特に健康に係る有害物質は実験器具などの洗浄水も3回位までは貯留することを規定している。従って排水基準値以下であってもこの2物質が検出されること自体がおかしいことになる。誰かが安易に考えて流したものであろうが,「地域社会の範となるべく,学内から一切の汚水を排水しない」との基本原則をふまえて,関係規則が制定されたものであるから,大学人の良識に基づいて行動されることを要望したい。生活環境に係る汚染物質のうち,水素イオン濃度・フェノール類・銅・亜鉛・溶解性鉄・溶解性マンガン・クロム及びフッソは排水基準値に比してかなり低い値であり問題はない。ノルマルヘキサン抽出物質の排水基準値は鉱油5mg/I,動植物油30mg/lであり,その分類検査を行っていないが,医学部では鉱油は余り使用しないので60年l2月のl2mg/lでも基準値以下と思われる。ヨウ素消費量は水質汚濁防止法には規制されていない項目で,下水道法による規制値が220mg/lと定められている。61年l2月以外の6回の成績は最高でも7.7mg/lであるのに61年l2月の値のみl700mg/lと異常に高くなっている。工学部の測定成績でも9l0,960mg/l(工学部は2ケ所測定)の高い値を示している。ヨウ素消費量は硫化物,特に硫化水素を測定する検査法で,多分下水処理場の悪臭のための規制と思われるが,このような異常値の原因は考えられず採水当日前後に悪臭があった事実はないようであり,医学部と同じ日に行った工学部の成績もその日だけ異常値を示しており,測定ミスでなければ幸いである。小串地区の下水管は生活排水用と雨水用との分流式になっているが,現在は宇部市の下水本管に両者とも流入している。折角,分流式になっているのに現状は合流式であり,下水処理の無駄であり,大雨の時には水質検査結果に影響を与えるので,雨水用は真締川に排水するように市当所に早く工事するよう働きかける必要がある。 私は山口大学環境汚染等防止対策委員も兼任しているので,排水以外の問題点にもこの際ふれておきたい。医学部の塵芥焼却場は曽て燃焼物によってもうもうたる黒煙を排出して,それが付近の住宅にたなびくことがあり,宇部市環境部長から非公式ではあるが改善要望が出された事があった。57年にサイクロンを設置した焼却炉に変更してからは以前のような事はなくなっている。医学部学生の部活動,特に軽音楽部による騒音に対Lて付近住民から苦情が申し出されており,戸外で練習しない,窓は締め切り暗幕を引くなどの対策は指示しているけれども,今もって住民からの苦情は絶えないようである。練習時間を限定するなどの他に防音工事も考える必要があろう。騒昔については医学部の南側の通称産業道路の交通騒音が講義室内で70ホーンを越えて講義が妨害されることがしばしばあり,医学部北側にバイパスの計画があり,これが設置されると病室や医療短大への騒昔の影響ハゆるがせに出来ない問題となることが予想される。
3)常盤団地(工学部,工短大)
工学部 中西 弘
山口大学の特殊排水や廃棄有機溶剤の回収,処理システムが稼動して,約l0年が経過した。このところ,工学部と工短大のある宇部市の常盤団地の排水は,大過なく処理されている。大過なくとは,別段問題が起こっていないと言う意味であって,掘り起こしてみれば,何か問題点が見出されるかもしれない。しかし,強いてそのような努力をしていないのである。以下,個々の問題を考えてみる。
1.放流水質について(下水道への放流)
ところで,常盤団地の排水は宇部市の公共下水道に排出されている。しかし下水道には,どのような排水を流しても良いと言うのでは無く,下水処理の機能を妨げ,また処理出来ない悪質な排水は,基準値以下に処理しなければならないことになっている。その基準は,本来下水処理で除去することの出来ない重金属等の有害物質については,それが直接に公共水域に排出される場合と同等の値となっている。一方,BODや浮遊物質のような本来下水処理で除去できる物質についても,濃度が高過ぎると処理しきれないのでその上限値が設けてあり,BOD 600mg/l以下,浮遊物質 600mg/l以下の基準値となっている。 山口大学では,外部に委託して学内の排水の水質検査を定期的に実施しており,原則として毎年l月と7月の年2回の定期倹査を行っているが,その中の常盤団地の最近の成績を取り上げて見ると表lのようになっている。測定項目は健康項目を中心にした有害物質l9項目であり,測定地点は工学部通りに面した正門と旧正門の公共下水道への放流2地点である。表lの値を見る限り,総水銀とヨウ素消費量を除いて,その他の項目はすべて基準値を遥かに下回っており特に問題はない。なお亜鉛は基準値の5.0mg/l以下であり問題が無いが,0.5mg/lに近い値が検出されていることがある。この原因の一つとして水道管に亜鉛メッキ鋼管を使用しているところがあり,水道水中に溶出した亜鉛によるものと考えられるが,亜鉛は水道水を飲料する場合において特に注意を要する項目である。ヨウ素消費量は硫化物その他の還元物質の量を表わす指標であり,通常はl0mg/l程度以下の値を示しているが,昭和6l年l2月l6日の9l0及び960mg/lの値は,同日採水の小串団地の1700mg/lと併せて考えると異常であり,2桁多い数値であるが,これは報告の誤りであろう。総水銀は,排出基準値の0.005mg/lを越えているのが排水口2(正門)において2件あり,昭和59年6月13日の0.018mg/lと昭和60年6月5日の0.006mg/lがそれである。その他の時期でも排水口2では基準値以下であるが水銀が検出されており,総水銀に関しては注意を要する。水銀化合物についての取扱規則が厳重に守られるよう責任者として注意を喚起したい。 以上が定期水質検査結果の概評と問題点であるが,検査項目はこれでよいのか,また測定回数もこれで良いのかという問題が残る。検査項目についてはBODや浮遊物質のような生活環境項目が省略されているが,これ等は下水処理によって除去される項目であり,また大学構内の排水では,600mg/lという基準値を越えることは先ず無いと考えられるからである。また,水質,水量変動の極端に激しい大学排水にあって,年2回という測定回数は常時監視という立場からみれば,いかにも少ない回数てあるが健康項目に対する自動測定の困難なことや手分祈の煩わしさ,さらに殆どの項目で問題が無いことを考えると,測定地点2の水銀を除いて,現況の年2回の測定体制を継続して行くことに特に問題は無いと思われる。しかし,工学部においては水銀については監視体制を強化する必要があり,山口大学全体を通しても昭和58年からの9回のデータがあるので,これ等の結果を踏まえて大学排水の監視体制を改めて検討する必要があろう。
2.特殊廃液と廃有機溶剤の収集,回収
しかしながら,単に排水の監視体制を強化する以前にもっと重要なことは発生源の対策であり,あらかじめ決められた手順に従って濃厚な有害廃液や廃有機溶剤が忠実に回収,保管され,少しでも排水中に投棄されないように厳重に管理されているか,どうかを指導,監督を強化することが,より重要である。現状においてこの様な点について特に努力を払ってないが,写真廃液の処理の不十分さが指摘されている他,今のところ特に問題は生じていない。なお最近,研究室に長期に保管され,不要となった薬品類の処分が話題となっており,これ等の廃薬品類の処理・処分体系を確立することが急がれている。
3.環境保全への道
既にレールが引かれた排水処理対策の路線を忠実に履行することは当然のことであるが,これに加えてまだ顕在化していない問題点を掘り起こして,事前にその対策を講じておくことがより重要である。常盤団地においてもまた未解決であり,今後に重要になると考えられる環境への課題として,次のことが挙げられる。
l)未知の有害物質に対する事前対策
トリクロロエチレンのような有機塩素化合物による地下水汚染が問題になっているが,工学部構内においても大丈夫か,また石綿粉塵による汚染はないか,さらに次々に使われる新化学物質による汚染はないか。これ等の問題について,常に気を配り事前に対策を考えておくアセスメント制度の確立が必要である。
2)廃棄物及び廃有機溶剤処理の問題
現在,構内で発生する廃棄物(ゴミ)は可燃物と不燃物とに分け,可燃物は構内のバッチ炉で処理されている。このバッチ炉の公害対策は十分であろうか,不完全燃焼の黒煙が,SOxやNOxが,また,その他の有害ガスは発生していないだろうか,炉の構造は十分だろうか,これ等の調査は十分ではなく,問題が残っている。 また,不燃物は宇部市の施設によって処分されているが,処分は完全になされているだろうか,追跡調査も必要であろう。 さらに,廃有機溶剤は外部委託によって処理されているが,これも処理が完全に行われているだろうか,これも追跡調査が必要であろう。 なお,先に述べた廃棄薬品の処理・処分も問題である。
3)構内騒音問題
このことは,交通安全対策委員会の仕事にも関係するが,違法なバイクの乗り入れによる騒昔が跡を立たない。これは交通取り締りによって解決する間題ではあるが,環境保全の面から強力な指導,取りi締りが必要である。 以上,常盤団地の大学排水と関連する公害についての問題点について述べた。正直にいって環境や排水問題についての関心は薄らいでおり,特に掘り起さない限り,問題は生じていない。この文章を書くにあたって改めて初心に帰り,公害発生の末然防止により一層の努力を払わなくてはならないことを肝に銘じておきたい。