12.水質汚染と農業
山口大学農学部 丸本 卓哉
農業用水の汚染による農作物の被害については,足尾銅山の鉱毒水や神通川のカドミウム汚染などが知られている。重金属による水質汚染は鉱山廃水やメッキ工場廃水等が流入することによって生じる。このような水質の汚染を防ぎ,水質を保全するための規制が種々行われており,工場からの排水などはかなり改善されてきてはいるが,河川の汚濁は依然として進行している。特に,都市近傍の河川は,都市部の膨張や生活様式の変化などによって急速に汚れている。なかでも家庭下水の汚濁寄与度が相当高くなっている。家庭下水には有機物が含まれており,分解され易い窒素化合物を含有している。また,糞尿処理施設からの放流水中のアンモニア態窒素濃度は極めて高く,放流水の希釈倍率によっては,農作物に被害を生じるので注意を要する。 窒素は作物の養分として最も重要なもので肥料として最も多量施用されているものである。元来,作物に対する窒素不足が問題であって,過剰が問題になることは極めて少なかった。ところが,前述したような水質汚濁によって窒素過剰の害がみられるようになってきた。最も大きい影響を受けるのは,用水を多量に使用する水稲である。窒素の供給量が多すぎると,茎葉が繁茂して濃緑色となって成熟を遅延させ,結実が不完全となる。著しい場合には,収穫前に倒伏したりする。汚濁水を農業用水に使用する場合,農家の施肥管取に狂いが生じることを示している。さらに,窒素のみならず,他の養分にも影響が拡大されていくのは間違いない。 農業用水が汚染されることは,我々の食物が汚染されることであり,生命に関する重大事である。特に,農地が重金属で汚染された場合は,その回復はほとんど不可能である。汚染土壌を全て新しい土壌と入れ換えなければ,きれいにはならない。 山ロ市は,清流に恵まれた文化都市であり,いままでは水質汚濁に悩まされたことがなかったものと思われる。その為,全国でも有数の下水施設の普及していない都市である。しかしながら,もうそんな悠長なことはいってられないであろう。 きれいな山口市と安全な食物の確保のために下水道及び処理施設の一日も早い整備を願うと同時に,できる限り汚染を生じないように気をつける自覚と態度を持ちたいと願っている。