11.環境と化学技術

                        工業短期大学部 松埼  浩司

 「環境」という言葉を聞くと一体何であろうかと考える。広辞苑によると「人間または生物をとりまき,それと相互作用を及ぼし合うものとしてみた外界」とある。自然的,社会的,その他の要因を含んでいる。自然的環境について考えてみる。地球上に生物が現れて以来35億年,また人類が現れて以来400万年といわれている。その間生物や人類はその時の地球上の環境に適応できるように発達しあるいは淘汰されてきたのである。よって現在の地球上の環境によって我々は支えられているのであり,それが変われば当然生命は危うくなるであろう。地球上の環境は静的なものではなく大きな動きの中におかれていてマクロ的にはバランスを保っている。人間がその動きを変えまたはバランスをくずそうとすれば,人類の手には負えないような大きな反動が生しるであろう。この一端が公害という形で現れているものと考える。この様な観点からすれば,自然的環境は自然科学の対象とする自然そのものとも考えてもよいであろう。                                    科学技術の進歩によって人間生活は一面非常に便利・快適になってきた。しかし一方では従来とは異なる環境をも作り出しつつある。自然科学の究極の目的として自然の解明という面があり,その理論の応用として科学技術がある。しかし一面的な理解でそれを応用しようとすれば,他方では自然からの大きなしっぺ返しが生じかねない。それが一度に生じるのではなく徐々に生じる場合もある。例えば最近問題になっている有機スズ化合物による海洋汚染がそうである。貝類や海草が付着するのを防ぐために,船底や魚の養殖用のいけすの網へ有機スズ化合物塗料の塗装をしている。これは一面では大きな経済的効果をもたらしているが,他方では少しずつ汚染が進行しているのであろう。また科学技術は人類の幸福に役立つのみならず,使い方によっては凶器にもなり,両刃の剣という面も持っている。人類のおごりによって,この地球を取り返しのつかぬ環境に変えてしまわないように,我々自然科学者あるいは技術者としては,このような巨大な自然に対して謙虚に対処せねばならない。自然を克服するというよりは,自然と調和する方向を目指すべきであろう。           自然科学者や技術者が以上のことを理解し実行しようとしても,一般の人々また他分野の科学者たちの中では自分たちには無関係だと認識している人のいることも事実である。しかしながら科学技術は常に未完であり,その恩恵にあずかりながら知らぬうちに環境破壊または汚染に手をかしている場合もある。このような面で我々大学人としては教育という責任が非常に大きなものになる。               大それた内容になったが,廃水処理センター運営委員会委員を引受けており,呼びかけもその役目の一つであろうから日頃考えていることをまとめてみた。我々大学人としては社会的環境についてはもちろんのこ自然的環境に対する認識を深くし,またその保全という面での教育についても大いに考えねばならぬと思っている。言うは易し行うは難しの日常である。