8.附属農場における畜舎汚水の処理施設について

農学部 西野 武蔵

 家畜の排せつ物は,有機質肥料として土壌に還元し,自然循環に適合した方法で,地力の維持増強のために処理するのが望ましい方法である。しかし,近年,飼養規模の拡大や化学肥料普及によるきゅう肥の需要の減少,さらには,市街地の進展と混住社会化等により,家畜排せつ物は,とかく環境汚染の源となりがちで,その処理は,環境汚染防止の立場から行う必要がある。

 本学附属農場の畜舎から排出される家畜排せつ物の多くは,きゅう肥としてほ場に還元利用されているが,畜舎汚水は一定の処理を経て放流されている。ここでは,本学附属農場における畜舎汚水の処理施設の概要にふれてみることにする。

 畜舎の概要

 畜舎は,通路を中央に,その通路をはさんで牛床が左右に対尻式に設けられている。牛床と通路との間にはふん尿溝があり.家畜のふん尿はここに排せつされる。溝の中のふん尿は、l日2回,自動式のバーンクリナーによって舎外に搬出される。

 多板式固液分離機

 搬出されたふん尿と畜舎洗浄汚水は,多板式固液分離機にかけられる。ここでは,0.5@以上の固形物とそれ以下の微細固形物を含む液状部分に分けられる。0.5@以上の固形物は堆肥場に運ばれ,腐熟され,後にきゅう肥として利用される。0.5@以下のいわゆる液状部分は,汚水としてつぎのような処理が行われる.

 調整槽

 多板式固液分離機によって分離された液状部分は,まず調整槽に送られる。ここでしばらく貯蔵される間に,沈殿層と上澄に分離する。その上澄部分は,数倍の水で稀釈され,つぎのばっ気槽に送られる。

 ばっ気槽

 ばっ気槽内では,活性汚泥が調整槽より送られてきた汚水中の有機物を吸着し,汚泥中の微生物の異化作用と同化作用とによって汚水の浄化が行われる。すなわち,汚水中の有機物は,微生物の異化作用によって炭酸ガスと水とに分解される。同時に進行する同化作用の結果,微生物量(余剰汚染)も増加する。微生物量が増えすぎると,栄養源のバランスがくずれたり,溶存酸素消費量が増加したりして,汚水の浄化作用に支障をまねく.したがって,余剰汚泥は系外に排出し,微生物量を調整する必要がある。

 また,活性汚泥微生物の呼吸や吸着有機物の酸化分解には,水に溶けている酸素(溶存酸素)が必要である。この酸素の供給を効率よく行うためには.汚水と活性汚泥がよく混合されなければならない。この操作を行うのがばっ気であり,その装置がばっ気装置である。ばっ気装置には,水中に微細な気泡を送る散気式と水面をかきまぜる機械かくはん式がある。本附属農場では散気式を用いている。ばっ気槽で処理を完了したものは,混合液のままつぎの沈殿槽に送られる。

 沈殿槽

 送られてきた混合液は,沈殿槽の中をゆるやかに流れる。その間,混合液中の活性汚泥部分は,生物凝集をおこして沈殿する。そして,その上澄液は浄化された水となって,沈殿槽からあふれ出る。沈殿槽の底には活性汚泥が集積するが,この一部は再びばっ気槽に返送される。これを返送汚泥という。返送汚泥量はばっ気槽内に流入する汚水中の有機物をほどよく摂取できる生物量となるような量に調節する必要がある。また,沈殿槽内の余剰汚泥は系外に取り除かれる。

 浄化水の消毒と放流

 ばっ気槽で浄化され,沈殿槽からあふれ出た浄化水は,つぎの消毒槽に送られる。ここで,浄化水は塩素にさらされ,消毒されて外部に放流される.

 スラッジ濃度

 ばっ気槽における活性汚泥量の多少は,浄化能力に影響を及ぼす。この量の点検の一つに,30分間の汚泥沈殿率(SV30 ,Sludge volume30)を測定する方法がある。すなわち,1Pのメスシリンダーに混合液1Pをとり,30分間静置して,沈殿した活性汚泥の量から次式により計算される。

  SV30  =        ×l00  

 SV30は30〜70%の範囲におさまるのがよいとされている。

 昭和55年5月から12月にかけて,月に2回,本附属農場のぱっ気槽内の混合液についてこのSV30を測定してみた。その結果,28〜49%,平均38±6%とであった。この値を上述の管理指標と照合してみて,本ばっ気槽はほぼ適正に操作されていたとみられる。

 畜舎汚水処理排水路系の水質

 今から5年前,昭和55年5月から12月にかけて,月に2回,汚水処理排水路系の2ケ所で簡単な水質検査を試みた。調査地点は処理水が放流されている地点と,同排水路系で,排水口より200E下流の地点とした。以下,前者をA地点,後者をB地点とする。調査項目は,pH,BOD(生物学的酸素要求量),臭気および色相の4項目とした。

 pHは,A地点で7.1〜7.9,平均7.44±0.21,B地点では6.8〜7.2,平均7.00±0.l8であった。水質汚濁防止法による排水基準は5.8〜8.6とされており,A,B両地点のpHとも基準内であった.

 BODは,A地点で32〜61ppm,平均43.9±9.0ppmで,B地点では8〜l4ppm,平均l0.3±l.9ppmであった。排水基準ではBODは160ppm(1日平均120ppm)とされており,BOD値は,両地点ともこの基準値より低かった。

 臭気の測定は,6段階臭気強度表示法によって行った。この方法は.臭気強度を0〜5の6段階とし,0は無臭,1はやっと感知できるニオイ,2は何のにおいであるかがわかる弱いニオイ,3はらくに感知できるニオイ,4は強いニオイ,5は強烈なニオイとしている。この臭気強度表示法に準じて,A,B両地点の水を採取し,40〜50℃に加温して臭気強度を測定した。その結果,A地点では,ときに発酵臭や下水臭を感じる場合もあったが,臭気強度としては1〜1.5の範囲にあり,B地点のものではほとんど無臭で,臭気強度としては0〜0.5の範囲であった。

 色相は,水を一定量フラスコにとり,自然光をとおして観察した。A地点のもののなかには,わずかに褐色を呈する場合もあったが,ほとんど無色で,B地点のものはすべて無色であった。

 以上,排水処理センター広報の意図にそったものとなるかどうか,とまどいながら,古いデータをもとに,附属農場における畜産汚水の処理施設についてふれてみた。何らかの参考になれば幸である。