山口大学理工学研究科博士課程自然共生科学専攻の設置記念講演会

立花隆氏の講演「自然史のなかの人間の現在」を聞いて

理学部  遠藤克彦

 1997 年4月に山口大学理工学研究科が発足し、理学系の博士課程専攻として、自然共生科学専攻が設置されました。この新しい博士課程専攻が設置されたことを記念して、7月4日に立花隆氏の講演会「自然史のなかの人間の現在」が山口市民会館大ホールで行われました。同氏は、人間と自然の共生が環境の保全と自然保護の観点から非常に重要であると考えておられ、人間と自然の共生を研究する専攻が山口大学に設置されたことを喜ばれ、快くこの講演を引受られたとのことでした。また、同氏のご講演は盛況で、1,200名が収容可能な大ホールに、多数の大学や県の職員、学生、一般市民が詰めかけ、座れない人がでるほどでした。

 人類の歴史は、猿人と呼ばれる人間の祖先がこの地球上に出現してからわずか 400 万年であり、その間に、人類は無限と思われてきた自然と資源を使って目覚ましい発展を遂げてきた。その過程で、人類は自然を大幅に変え、多くの生物種を絶滅あるいは絶滅の危機にさらしてきた。しかし、最近になって人間は、それまで無限と考えていた自然と資源が有限であることに気がつき、人間と自然の共存(あるいは共生)の在り方を模索している。

 我々人間が住む青い地球は、宇宙のオアシスとも言える存在であり、その誕生から 46 億年が経過しています。この地球のすばらしい自然環境は、太陽との適切な距離、水と大気の存在、生命の誕生等によってもたらされたものです。地球より太陽から少し離れた火星では、気温が低く、水は地中で氷となっており、また、太陽に少し近い金星には、灼熱の世界があるとされ、それらの星で誕生した生命が生き永らえている可能性はかなり低いと考えられています。

 原始の海で生命が誕生してからおよそ 40 億年、その半分の 20 億年は、単細胞の生物のみであったと推定されています。これは、生物が単細胞から多細胞に進化する過程に非常に長い時間を要したことを示しています。その後、生物は進化の過程で光合成能力を獲得し、自らの活動エネルギーを作り出すと同時に、大量の炭酸ガスを吸収して酸素を放出しました。その結果として、海水中に溶けていた大量の鉄分が酸化鉄として沈殿し、大気の上層に生物にとって有害な紫外線を吸収するオゾン層ができたと考えられています。海に誕生した生物が、陸上にその生息範囲を広げ、現在の地球環境の基本的な構造ができあがったと考えられています。

 しかし、生物が誕生してから 40 億年の間、地球の自然環境が平穏であったわけではありません。それは、1億8千万年に渡って地球上で繁栄していた恐竜が、今から 6,500万年前に突然にその姿を消したことからも明らかです。この恐竜の絶滅は、その時代の地層に含まれる炭化物やイリジウムと呼ばれる隕石物質から、カリブ海に落下した直径約 10 Km の隕石の衝撃と火災、それに続く寒波によって起こったと考えられています。この自然環境の激変を生き抜いた小型の爬虫類からほ乳動物が進化し、そのほ乳類が現在の繁栄を築いたものと考えられています。また同時にこの衝撃的な事実は、地球上の生物の大部分が死滅するほどに強烈な自然環境の変化も、自然の浄化作用によって、徐々に回復することを示しています。

 私達人類は、農業革命によって多量の食糧を確保することに成功し、産業革命によって工業製品を確保しました。今、人類は、人間と自然との共生と言う環境革命が課せられています。もし、人類がこの環境革命に失敗すれば、その存続さえ危うくなると推察されています。

 地球の大気中の炭酸ガス濃度は、年々増加の一途をたどっており、その温室効果による地球が温暖化が警告され、更に、ダイオキシン等の猛毒物質による土壌や井戸水の汚染が叫ばれています。また、これまでに人類が出会ったことのない病気、例えば、エイズやエボラ出血熱等が発生し、各国政府は、それら新しい病気を治療するために多額の研究費を支出していますが、いまだその治療方法さえ確立されてはいません。ある人は、これらの病気を人間が自然環境を狂わせたための自然のしっぺ返しであるとも言っています。

 人類がこの環境革命を成し遂げるためには、国の施策として取り組むことはもちろん、個人が、個人としてできることを見つけだし、それに取り組む必要であると考えられます。

 熱の入った立花隆先生のご講演は、講演時間を大幅にオーバーし、約2時間に渡って行われました。