JAMSセミナー(北海道)に参加して

教育学研究科修士課程2年   福田陽子

 

昨年の夏、私は幸運にもJAMSセミナー(主催 数理科学振興会、理事長 広中平祐学長)に参加することができました。私が参加した'96年度のセミナーは北海道大沼のセミナーハウスを中心に約一週間の日程で開催され、山口大学からは、工学部助手の今井剛さん、農学部大学院生のKingshuk ROYさん、そして私の3名が参加しました。

セミナーの主なテーマは「環境、科学、科学技術(Environment, Science and Technology)」で、参加者は一週間のあいだ、生活を共にしながらこのテーマについて考えていきます。

このセミナーは国際セミナーであるため、参加者約50名のうち約半数はアメリカをはじめ、イギリス、アジア諸国などの外国の方で占められていました。そのため、期間中のコミュニケーションはすべて英語で行われました。参加者の多くは大学生、大学院生でしたが、学生以外に企業からの参加や大学スタッフの方もいました。テーマの関係上、理系学部の人が多数を占めていましたが、一口に理系といっても専門分野は様々で、きわめて多岐にわたっていました。

今、一年前を振り返ってみると、語学力がゼロに等しい私の参加を促したものは、若気の至りとも言うべき図々しさと、運が良かったことぐらいです。所属している研究室は「理科教育」で、昨今の状況を考えあわせれば、環境問題の重要性は伺い知るものの・・・英語の苦手な私で役目がつとまるのだろうか大変不安でした。しかし幸か不幸か、周囲の流れに流されて、大学院生活始まって以来の貴重な体験をすることになりました。

では次に、私が一週間のセミナーを通じて体験したことを紹介していきたいと思います。

一週間のセミナーの行程は、まず午前中に招待講師の先生方、または以前のJAMSセミナー参加者の方々による講義が行われます。昼食を挟んで午後から、スモールグループディスカッション、ポスターセッション、レクリエーションなど様々なプログラムが用意されています。

 午前中に行われた講義は、7名の講師の方々によって「環境、科学、科学技術」をテーマに進められました。ノーベル賞受賞者のProf. Mario Molinaによるオゾン層破壊に関する講義をはじめとし、エネルギーシステム、生命体の多様性・・・などそれぞれの分野で著名な先生方による講義を聴くことができました。講義内容に関しては理解できないところもありましたが、環境問題の奥の深さとあらゆる視点からの考察が必要なことは十分理解できました。

緊張感漂う講義を終えると和気あいあいとした雰囲気の中で昼食です。

 ところで、このセミナー開催地の大沼は国定公園にふさわしい自然の美しいところでした。セミナーハウスから宿泊所までの帰り道は、自然を楽しむ目的もあってみんなで散策したり、サイクリングを楽しみました。とくに意識したわけではありませんが、お喋りを楽しみながら樹木の中を歩いたりする時間は、実は環境を考えていくための心のゆとりをつくってくれたのではないかと思います。

午後から行われたプログラムの中では、スモールグループディスカッション(SGD)が印象に残っています。ここでは、参加者が十数人ずつのにグループに分かれ、自分の専門分野から「環境、科学、科学技術」に関して研究発表を行いました。私は教育学部で理科教育を勉強しているので、環境教育の立場から「松枯れ」を題材に発表を行いました。グループの構成メンバーにはあらゆる分野の人が含まれているのですが、私たちのグループは水環境、資源、エネルギー、自然保護、気象、海洋学、生物学に関わる観点から、様々な発表(ディスカッションを含む)が行われました。その後、グループのメンバーによって発表された内容は、各グループの代表者を通じて参加者全員に報告されることになっていました。その発表報告のため、グループのメンバー個人個人でなされた十数項目の発表を一つの流れ、指針に沿ってまとめる作業が行われました。多岐にわたる内容をまとめるわけですから、そんなに簡単なことではありません。大きな結論として共通項はありますが、細部においては当然意見が異なることもありました。このような話し合いの場面では意見が拮抗しながらも、一つの連帯感のようなものが生まれてきたように思います。各個人による発表は、「種々の環境問題→解決」(実際はもう少し複雑でしたが・・・)という一つの流れに沿って整理されていきました。そして、環境問題を解決して行くための一つの手段に、個々人の意識レベルにおける変革が必要であるという、考えてみれば一般的な結論におさまりました。「意識改革には教育が必要である」というところに、私の発表が反映されたように思います。グループのメンバーには理学、工学系の人が多かったため、当然環境問題へのアプローチも理学、工学的なものが多かったのですが、環境問題解決に向けて「意識改革、そのための教育」という話題になると、私が取り組んでいる教育分野に課せられた役割の大きさを改めて感じました。

 午後にはこの他にポスターセッションが行われました。ここでは、発表内容は環境問題にとどまらず、発表者が現在取り組んでいる研究、関心事などを紹介しあいました。あらゆる分野の内容にふれることができ、ポスター製作者とその説明を聞く人との間には、真剣な眼差しと、他分野への好奇心からうまれる楽しい雰囲気がありました。鋭い質問が出されるのではないかと、プレッシャーも少なからずあったのですが、このポスターセッションは、参加者がどのような人柄か理解できる面白い企画だったように思います。

 また、宿泊所に帰ってからもいくつかのディスカッションが行われました。活発な意見が飛び交う中、自分の意見、考えのあいまいさに気づかされることもしばしばでした。英語で話す難しさもさることながら、日本語で話せないことは当然英語でも言えませんので、もどかしさを感じることもありました。

講義、ディスカッション、さらにポスターセッション・・・と、かなりの緊張を強いられそうな内容ですが、セミナーでは緊張をほぐすような企画も用意されていました。レクリエーションを楽しむ時間が随所に用意されており、ここでは開放的な楽しい時間を過ごすことができました。ティーセレモニーの体験や花火大会の見学、パークゴルフ、ちょっとした観光などがこれに当たります。中でも最後のお別れパーティーは大変な盛り上がりを見せ、とても印象に残っています。

今回のJAMSセミナー参加によって、当然のことのように思われていた事柄も、いろいろな人々との(今回はとくに外国人との)交流、意見交換などを通して、今までとは違った視点から考えることができたことは私にとって貴重な体験でした。それと同時に、改めて環境問題の重要性、そして難しさについても認識させられました。

最後に、JAMSセミナーの主催、数理科学振興会の理事長である広中学長をはじめ、参加の機会を与えていただき、ご指導いただいた先生方、そして、JAMSセミナーでお世話になったみなさまに感謝申し上げ、終わりたいと思います。