宇部市のグロ−バル500の受賞

          医学部 芳原 達也

 宇部市が1997年度の国連環境計画(UNEP)のグロ−バル500賞を受賞いたしました。

 グロ−バル500賞は、環境保全に功績のあった個人、団体に送られるもので、1987年から91年までの5年間に、全世界で約500人、または団体を表彰する計画であったことからグロ−バル500賞と呼ばれており、92年以降も継続しています。日本ではこれまで、87年に本田技研工業の故本田宗一郎氏が受賞して以来、個人14人と2団体が受賞しています。宇部市は北九州市、四日市市に次いで3番目の受賞となります。

 今回の受賞の対象となったのは、1940年代末から公害を未然に防止してきた「宇部方式」と呼ばれる同市の公害対策です。

 炭鉱とセメントの町として知られた宇部市は戦後、産業の発展とともに、ばいじんによる大気汚染が深刻化しました。当時世界有数の工業都市ピッツバーグ(米国)やマンチェスター(英国)をも上回る降下ばいじん量を記録し、市民の生活環境及び健康生活において大きな社会問題となりました。そこで、1949年に同市では、議会内に「降下ばいじん対策委員会」を設置し、@企業による集じん装置の早期取り付け、A道路清掃のための散水車の購入、B緑化を推進することなどが提案されました。1951年に全国に先駆けて、企業、行政、学者、市民より構成される「宇部市ばいじん対策委員会」が設立されました。これがいわゆる宇部方式の母体となったもので、山口大学医学部公衆衛生学講座の野瀬善勝名誉教授、工学部の上岡豊名誉教授をはじめとする多くの御尽力によるものです。この「宇部方式」は、情報公開を基礎に、地域の産・官・学・民の四者が相互信頼・連帯の精神に根ざして一体となり自分たちが住んでいる地域の健康は自分たちが守ろうという自治意識の下に、科学的な調査データに基づく話し合いによる発生源対策を第一義として法令や罰則に頼ることなく、むしろそれらを先取り或いはさらに進める形で公害の未然防止と環境問題の解決を図った地域ぐるみの自主的な取り組みです。

 同委員会は、条例による規制基準や罰則などには頼らず、科学的な調査結果に基づく四者の話し合いで問題解決に取り組んでいくとともにデータを積極的に公開しました。この結果、1951年には、ばいじん量が1km2あたり月約56tだったものが、現在では約4tまでに抑えることに成功しました。

 かつて、「灰の降るまち」といわれた宇部市は、現在では「緑と花と彫刻のまち」というキャッチフレーズ通りの美しい景観をもつまちに生まれ変わりました。この宇部市の先駆的なばいじん対策が、その後我国の「ばい煙の排出の規制等に関する法律」の基礎をつくったといわれています。

 また、本方式による山口大学の関与を調査してみますと、山口大学医学部の疫学的方法論と山口大学工学部の工学的方法論の二つの両論がうまく作動して宇部方式が運営されてきました。

 山口大学教官がいかにこの体制を支えてきたか審議会の委員の就任状況を整理してみますと以下の様になります。

昭和24年 宇部市降媒対策委員会   会長 野瀬善勝 医学部教授

昭和26年 宇部市煤塵対策委員会   会長 野瀬善勝 医学部教授

                  委員 上岡 豊 工学部教授

昭和35年 宇部市大気汚染対策委員会 会長 野瀬善勝 医学部教授

                  委員 上岡 豊 工学部教授

昭和45年 宇部市公害対策審議会   会長 野瀬善勝 医学部教授

                  委員 福田基一 工学部教授

                  委員 木村 允 工学部教授

                  委員 中西 弘 工学部教授

                  委員 早野延男 工学部教授

平成 6年 宇部市環境審議会     会長 中西 弘 工学部名誉教授

                  委員 芳原達也 医学部教授

                  委員 中尾勝実 工学部教授

                  委員 小嶋直哉 工学部教授

                   委員 浮田正夫 工学部教授

                   委員 早川誠而 農学部教授

 グローバル500賞の授賞式は6月5日世界環境デーに韓国のソウルで開かれました。式典には、藤田忠夫宇部市長、野瀬善勝山口大学医学部名誉教授、中西弘山口大学工学部名誉教授等々が出席しました。

 この式典で、藤田市長は、受賞について宇部市の環境保全対策が国際的に認められ大変光栄であること、さらに受賞をきっかけに、地域の環境保全対策はもちろんのこと地球環境の保全にも積極的に貢献したいと抱負を語っていました。

 今後、宇部方式が発展途上国の環境保全にとって有効なアプローチであるばかりでなく、山口大学全体として途上国の環境問題の解決に宇部方式を柱として援助の手をさしのべることがこれからの大学の国際的役割と考えられます。