「環境を整える」ということ

                            医療技術短期大学部 原田美佐

 看護学において、「環境」は非常に重要な概念の一つです。環境は人間の心身に影響を与え、人間は環境との関わりの中で生きており、これに反応し、適応しながら生きています。人間が生命を維持し、疾病の予防や回復、健康の保持・増進するためには生活環境をまず整える必要があります。
 私は医療技術短期大学部の中で看護教育に携わる仕事をさせていただいています。私の仕事と環境との関わりについてふりかえってみますと、それはまさに『どのように環境を整えることが、学生にとって最も有意義な学習ができるのか』を考え、実施することだと思います。私は学生にとって良い学習環境とは、適切な学習の場が提供され、適切な教材があり、主体的に学べるシステムでありながら必要に応じて適切なアドバイスが得られることだと考えています。私の担当している科目の「基礎看護技術」の中には「生活環境」という単元があります。その主な内容は、看護の対象者(病院に入院されている患者さんがここでは主になりますが)の生活されている環境の諸因子の認識や、患者さんの治療の場であり、生活の場でもあるベッドを整えるベッドメイキングやシーツ交換などという学習です。1つのベッドを作りあげるためには、次のような物品が必要になります。

1台のベッドメイキングに必要な物品

  ・ベッド1台           ・マトレス1個

  ・マトレスパッド1枚       ・シーツ3枚

  ・ゴムシーツ1枚         ・毛布1枚

  ・飾りシーツ1枚         ・枕3個
  ・枕カバー3枚          ・ベッドブラシ1個

  ・椅子1台            ・床頭台1台

 ここで少し、これらの物品を私たちがどのように整えているかを紹介させていただきます。私たち担当教官は、実習室を病室と見なして行動するように学生にオリエンテーションをしています。実習室に入れば学生は一人のナースであり、ベッドに休んでいるクラスメイトも入院されている患者さんということになるのです。病室である実習室は、いつもきれいにしておくように心掛けています。それは、患者さんの生活環境を整えることは、看護の目的である『患者の生命力の消耗を最小にする』ことに他ならないということを、学生に体験の中から学び取って欲しいと願っているからです。実習室には26台のベッドがありますが、これらのベッドでベッドメイキングを行う際、学生が安全・安楽を考え、能率良く行動できるように、私たちは春季・夏季休業中には、次のような環境整備を行っています。
@ベッドの掃除・油差し・ギャジハンドルの点検
Aマトレス・マトレスパッド・毛布・枕を屋上に運んでの天日干し
Bシーツ・飾りシーツ・枕カバーの畳み方と枚数を確認してのクリーニング出し
C仕上がって返却されたクリーニングの畳み方と枚数の確認
 (1枚ずつ広げてシミや破れはないかの点検)
Dベッドブラシの洗浄・消毒
E椅子・床頭台の掃除
などを行います。(今年の夏季休業中には、ボランティア学生が7人も来てくれたのでとても楽しく仕事ができました!)
 一つの単元毎に、使用する看護の物品の準備と片付けで慌ただしい毎日を過ごしていますが、そんな時、「環境保全について原稿を書いて欲しい、実習室で実際に動いている若い人にお願いしたい」と、廃水処理センター運営委員会委員であり広報誌編集委員会委員の右田先生から依頼がありました。右田先生から「実習室の排水はどうしていますか」など、排水に関していくつか質問されましたが、そのようなことにはあまり頓着せずに働いている自分に気付かされ、これは勉強の機会を与えていただいたんだなと思い、依頼をお引き受けしました。しかし、引き受けたはいいものの、何にもわからないし困ったことになったな…ということで『困った時の会計頼み』、会計係の須川係長さんに「うち(医療短大)の排水がどうなっているか教えて下さい!実は、環境保全の原稿を依頼されたのですが、全く排水のことわからないので勉強しないといけないのです。」と正直に話しました。須川係長さんはお忙しい中、大きな図面を広げて調べ、説明して下さいました。聞くことは、私にとってはほとんど新しいことばかりで、例えば排水経路には大きく生活排水、実験排水、雨水排水という3つの経路があること、生活排水管・実験排水管はそれぞれ汚水管、雑排水管という建物内では2つの別配管になっているところもあること、そして実験排水だけが検水桝を通ることなどを教えていただきました。
 私たちが実習室で使用している物品の中で、排水に関して問題になるのは水銀と消毒薬だと思います。現在は、血圧計や体温計も電子のものが多く使われていますが、基礎看護技術では水銀の体温計・血圧計も使用しており、実習中に破損して中の水銀が床に飛び散ることもあります。その水銀は素早く、手で触れないようにして、水銀専用の密封できるガラス瓶に集めるように指導し、正しい知識と技術が身に付くように学習を進めています。消毒薬に関しては、従来排泄物の消毒に用いていたクレゾール液を、有機物であるので環境に有害だということから、他の消毒薬に変更をして消毒を行っています。皮膚消毒に使用する消毒用アルコールは、カット綿花に浸して使用しているためアルコールを環境に排出することはなく、すべて焼却処分をしています。特に薬品管理には、最新の知識を取り入れながら、修正して実習を進めているといった状況です。
 今回、改めて環境について色々考えてみますと、私の中の「環境」という概念は非常に狭いものだったということがわかりました。人間が、そして他の生物が生きていくということを、もっと広い視野を持って考えていかなければならないし、私自身生活していかなければならないということを再認識させられました。環境保全は非常に地味な作業です。しかし、一人ひとりが頭でわかって、行動がとれる人になれるように、私たちは学生や子どもたちにこれから教育していく責務を負わされているということを痛感させられました。このようなことを考える機会を与えて下さったことに感謝しています。

      看 護 実 習 室 の 風 景