ネパールの環境衛生について


                 医学部4年 江嶋崇浩 川上太一郎 吉田祐一郎

 まず始めにネパールの国の概要について説明したいと思います。ネパールは長方形をした国で、東西が約850キロ、南北が狭いところで200キロ、広いところで240キロぐらいです。インドと、中国のチベヅトに挟まれた小さな内陸国です。ネパールは南のインド平原から次第に標高が上がって8000メートル級の山々の連なるヒマヤラまで、徐々にせり上がったような地形をしています。ネパールで人が生活できるところは、平原から丘陵の地帯までで、最も高いところで標高が3400〜3500メートル位までです。ネパールの人口の約46.6%が平原地帯に、45.5%が丘陵地帯に住んでいます。ネパールの気候には雨期と乾期があります。雨期は四月頃から始まり八月末〜九月まで。あとは乾期です。
 ネパールの人口は、約2000万人で全人口の44%がl5歳未満です。国教がヒンズー教で、ヒンズー教徒が90%。仏教徒は5%ほどで、残りは民族で異なります。ネパールは多民族国家で、大きくはインド・アーリア語族とチベット語族とに分けられます。ネパールの国家予算は700億円でその三分の一が外国からの援助です。CNPはl50ドル/人で、世界の最貧国の一つです。
 ネパールの首都はカトマンドゥです。カトマンドゥに長期間生活してみると、水道・電気といった「ライフライン」とよばれ現代の都市生活にとってはなくてはならないものが十分に機能していないことを痛切に思い知らされます。もちろん、ネバールには水道も電気もない村が多数あります。しかし、カトマンドゥは、発展途上国とはいえ一国の首都です。その首都において水や電気が常時くるわけではないことは驚きです。
 カトマンドゥでは、配管されていても、水が毎日こない地区もあります。水が毎日くるとしても時間給水が常であり、朝晩一時間くらいの給水です。時間給水であるため、たいていの家には地下タンクがあり、そこに給水時の水をためておけるようになっています。この地下タンクから、ポンプで屋上のタンクに汲み上げ、二四時間水を利用できるようにするわけです。水道からの給水は季節的に大きく変動し、水が少なくなるのは乾期で、これが終わりにちかずくにつれ、ひどくなります。時には、一週間ほど全くこないということもあり、こうなれば、地下タンクがいくら大きくても、おてあげです。水がこなくなり、タンクの水がつきれば、タンク車で水を運ぶ業者に連絡して、水を購入することになります。
 このように、カトマンドゥでは水を得るだけでも大変な手間がかかります。その背景にあるのは、絶対的な水不足です。水道の水源は、カトマンドゥ盆地をとり囲む山の谷川の水と盆地内の深層地下水です。山は低く、谷川の水量が少ないうえ、季節的に大きく変動します。雨期にはありあまるほど水が流れますが、乾期の水量は極端に減ってしまいます。これをおぎなうのが深層の地下水ですが、現在は揚水量がかん養量をこえ、地下水位が低下しており、過剰開発状態です。
 また、カトマンドゥの水道には供給量だけでなく水質に関しても多くの問題があります。水道だからといって、生水をそのまま飲むのは絶対避けるべきです。ほぼ確実に下痢をおこすし、コレラ、赤痢、腸チフスやウィルス性肝炎などの重病に感染する可能性もあります。特に旅行者は、こういった病気にかかる可能性が高く、実際、僕も肝炎にかかりました。この背景には、まず浄水施設の老朽化や不完全な運転による、水の不充分な処理があります。上流に人家があって汚染されている可能性の高い谷刀lの水がほとんどそのまま給水される可能性もあります。また地下水は、鉄・マンガン・アンモニア性窒素を含むにも関わらず、無処理でサラシ粉を加えただけで給水されたりします。
 また、浄水場できれいに処理されても送水の途中で汚染されてしまう可能性もあります。カトマンドゥでは、時間給水が常ですから断水中は配水管の水圧は低下します。すると、配水管の周りにある、たまり水が隙間を通って管内に入りやすくなります。問題はこのたまり水です。カトマンドゥは下水施設が発達しておらず、トイレの排水は地下に浸透させるのが普通です。市街地の立地する台地には砂礫でできた地層があって、水を浸透させやすいので浅いところにあるたまり水は、ほとんどが汚染されていると考えられます。
 こうした汚染を防止する最良の方法は、日本の水道のように二四時間通水を行い、常時管内の水圧をたかめ、水道水が外に漏れ出すことはあっても、外部の汚染地下水が侵入しないようにすることです。しかしこの前提として、十分な水量と配水管網の再編が必要ですが、実施は当面不可能であると思われます。また、上でも述べているようにネパールにおいては下水施設がほとんど発達していません。従って、トイレの汚水や、生活排水は地下に浸透させるだけです。当然下水施設の整備もいそがなければなりません。
 この他にも、人口増加、90年の民主化以後の住民の消費レベルの急激な上昇、そしてゴミを極端にけがれたものとし、いったん捨てられたゴミに触ることは、清掃人カースト以外の人にはできないといった文化的背景による、ゴミ増加問題や、古い車、ダンプそしてテンプーと呼ばれる乗り合いタクシーの増加に伴う排気ガスによる大気汚染など、これから取り組んでいかなければならない環境問題が多数あります。

写真  街中に散乱するゴミ