話題「廃棄物とリサイクル」    医療技術短期大学部 山本邦光

 瀬戸内海に浮かぶ人口千人余りの小島,香川県豊(て)島の50万トンにも及ぶ産業廃棄物
不法投棄の報道は記憶に新しい.処理を巡って豊島住民は1993年,処理業者,廃棄業者及
び香川県を相手とする調停を香川県知事に申請した.1997年国の公害等調整委員会(公調
委)の調停で住民と香川県との間で中間合意が成立し,また今年3月には一部排出業者を除い
て産廃対策に要する費用について応分の負担をすることで排出業者との間でも調停が成立した
.しかしその後,公調委が最終合意の条項作成のために住民・香川県双方に回答を求めていた
謝罪問題に関しては合意に至っていない.ところが今年8月香川県は豊島の5キロ西の直島の
町議会に豊島の産廃を直島で処理する最終案を申し入れた.町議会はダイオキシンによる二次
公害もありうるので今後検討することにした.10年にも及ぶ国内最大規模の産廃不法投棄を
巡る公害調停も,ここにきていよいよ最終段階を迎えようとしている.
 工業製品は農産品と異なり多くは廃棄物になる.1997年度,日本における自動車の生産
高はバス・トラックを含めて約1100万台,カラーテレビ670万台,エアコン820万台
,パソコン1000万台であった.プラスティックの生産高は熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂を
合わせると1500万トンにものぼる.自動車もプラスティックも日本の生産量はアメリカに
次いで世界第2位である.勿論,これら製品が全部日本で使用されたわけでなく一部は海外へ
輸出された.この年車は455万台,プラスティックは370万トン前後が輸出に回された.
ただし,38万台弱と78万トン弱が逆に輸入されている.
 作れば必ず廃棄される.これが工業製品の宿命である.工業新製品は,いわば,将来の廃棄
物予備軍ともいえる.日本は,世界有数の廃棄物排出国でもある.90年代の年間一般廃棄物
総排出量は約5千万トン,産業廃棄物排出量に至っては4億トンにも及ぶ.国民一人当たり,
0.4トンと3.2トンである.生産能力に匹敵するだけの処理能力が必要なのは論を待たな
いが,残念ながら現在の廃棄物処理技術は生産技術に比べ十分に発達しているとはいえない.
行政の対応も不十分である.技術や行政が産廃問題に十分な対応力を持っていれば,冒頭の豊
島のような問題は起こらなかった.
 自動車に限らずテレビやVTRのような家電製品でも,軽く成型しやすいプラスティックが利
用されている.しかし,プラスティックの分別や再利用は難しくほとんどがごみ処分場に捨て
られる.来年4月から容器包装リサイクル法が施行されるが,大手鉄鋼メーカーのNKKは川崎
市に廃棄プラスティックを高炉原料として再利用する設備を3月末までに建設し,年間約10
万トンの廃棄プラスティックを処理できる体制を作るとしている.廃車,廃家電を破砕する際
に発生する細片をシュレッダーダストというが,NKKはこのシュレッダーダストを金属片と廃
プラスティクに分離し,再資源化する技術を開発した.シュレッダーダストは廃棄物のなかで
最も処理が困難な最終廃棄物とされ,年間約120万トンがゴミ処理場に捨てられている.N
KKの方法は処理プロセスが簡単でダストの約90%を処理できるため廃プラスティク再生の
旗手となる可能性があるらしい.
 ドイツでは1996年から循環経済・廃棄物法が施行されており,それをモデルに我が国で
も2001年4月に特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)が施行されることになっ
た.通産省は,この法律で義務づける製品のリサイクル率を冷蔵庫と洗濯機50%,テレビ5
5%,エアコン60%に設定している.これを受けて大手家電メーカーは共同で家電リサイク
ル網を構築する方法を検討し始めた.排出される廃家電は年間2千万台程度とみられ各社個別
に回収するには負担が大きいと判断したためである.更に,三菱電機は2001年から順次,
全家電・AV製品を再資源化しやすいリサイクル設計に切り替えることにしている.一方,ト
ヨタ自動車はオランダの化学会社モンテルと共同開発したローコストでほぼ100%回収可能
なプラスティック技術を世界の主要自動車メーカーに供与することを決めた.また,来年以降
は海外で生産する自社新製品から順次新型樹脂を採用し,リサイクル率を現在の25%から3
0%まで高めることにしている.
 今年7月,欧州連合は域内で販売した自動車を使用後,メーカーが無料で回収するリサイク
ル法案を議会に提出することを決めた.もし,この法案が成立すると2001年以降に販売し
た車が廃車となった場合メーカーの責任で回収しなければならない.2006年以降は重量換
算で車の80%以上の部品の再利用を義務づける.無料回収と再利用の費用は,一社当たり数
百億円から千億円の規模になると試算されている.一台当たりの負担は1万5千円以上となり
最終的には製品価格に跳ね返ることになる.規制の対象は,域内で製造された車だけなく輸入
車にも適用されるので,わが国の自動車メーカーにとってもコスト増になることは間違いない.
 まだ決着はしていないが,欧州連合は域内で販売される自動車の二酸化炭素排出量を199
5年に比べて平均25%削減するよう各国自動車業界に要求している.欧米,特にヨーロッパ
の人たちの環境意識は高いと言われている.欧州連合の環境政策はメーカーよりも環境,消費
者重視の傾向が強く日本より進んでいるともいわれている.便利さの代償は大きい.利便性を
求めれば,それと引き換えに多大な犠牲を払わねばならない.
 21世紀はハイテクを基盤とするデジタル情報通信とバイオの時代と思うが,再利用技術が
産業の第三の柱になることを期待している.再利用技術が産業として成り立つ循環社会を構築
し決して環境を汚さない,これが先進工業国に課せられた責任ではなかろうか.