巻頭言
教育,研修そしてマニュアル
−東海村「臨界事故」に思うこと−
排水処理センター長 佐々木義明
1999年9月30日,茨城県東海村で「臨界事故」が発生した。報道による事故の概略は,次のようなものである。
民間ウラン加工施設「ジェー・シー・オー(JCO)」の東海事業所で,高速増殖実験炉「常陽」の核燃料に使う高濃縮ウランの加工中に,マニュアルから逸脱した作業の結果,限度量を超える高濃縮ウラン溶液が1カ所に集まり臨界状態に達し,原子炉でもないのに連続的核分裂反応が起こった。
現場で作業をしていた3名が急性放射線障害で入院し,うち2名の症状は極めて重い。3人の被曝量は,放射線によってできた血液中のナトリウム24の量から,それぞれ3,10,17シーベルト相当と推定されている。その他にもJCO社員,救急隊員,多数の住民が被曝した。事故現場から350メートル以内の住民に避難要請(51時間後に解除),10キロメートル圏内に屋内退避要請措置(10月1日午後に解除)が採られた。
延べ18人(2人1組,9組)の人海戦術による決死の処理作業(冷却水の抜き取りとホウ酸溶液の注入)で臨界を止めるまで,約20時間もの間臨界状態が続いた。わずか1,2分の処理作業で,被曝量が100ミリシーベルトを越えた作業員もいる。通常の生活で浴びる放射線量の約100年分に相当する。
「放射性物質の少量の施設外への放出」「従業員の致死量被曝」などがあった場合に当たる「レベル4」の事故とされている。国内最悪のレベルである。世界では旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(1986.4.26)がこれまでの最悪でレベル7,米スリーマイル島原発事故(1979.3.28)がレベル5であった。
事故の全体像は今後明らかにされるであろうが,マニュアルからの逸脱(裏マニュアルの存在?),研修不足および教育不足が指摘されている。
山口大学に核施設はないが,各種の危険が潜在している。今回の「臨界事故」を契機に,山大内における安全管理について,今一度点検する必要がありはしないか。
大学では危険物や毒物を取り扱い,危険を伴う作業も行われている。こうした作業に経験の浅い学生たちも参加している。万全の教育・研修が必要であり,また安全を確保するためにマニュアルの必要な場面も多々あろう。
実験廃液や実験室排水の取り扱い・処理においてもしかりである。不幸にして,排水から基準値を超える規制物質が依然として検出されている。環境保全の重要性を教育し,廃液の取り扱い方を実際に研修させていただきたい。そのために必要であれば,排水処理センターを活用していただきたい。また,遵守するためにマニュアルは使いやすいものが必要である。改善のご意見を寄せていただきたい。
2000年8月には,大学等廃棄物施設協議会の分科会が山口大学を会場に開催され,講演や研究発表が行われる予定です。排水処理センターや施設部が中心となり,その準備作業に着手しています。地元で開かれる分科会ですので,山口大学からも多くの参加者を得て有意義な分科会になることを期待しています。また,分科会に併設して環境保全に関連する内容で「公開講演会」ができないものかと検討中です。山口大学教職員・学生の教育・研修の場となる内容にしたいものと考えています。そのときには多くの方々に参加していただきたく思います。