私見、オランダにみる廃棄物対策 教育学部 和泉研二
「世界は神がつくり賜うたが、オランダはオランダ人がつくった」といわれる。13世紀以来干拓によって自らの土地をつくり出してきたオランダは、現在九州とほぼ同じ面積を持つが、その国土の約27%は海面よりも低い土地である。昨年の秋、オランダはこの100年間なかったほどの降雨量で、水浸しとなった干拓地が連日テレビに写し出されていた。昔なら風車で、今はポンプをフル稼動させてせっせと水を掻い出さねば、たちまち土地は水中に没してしまう。地球が温暖化し、海水面が上昇すれば一大事である。勢い、オランダは環境問題全般に敏感にならざるをえない。環境保護団体として有名なグリーンピースの本部もオランダにある。Dutch
treat といえば割勘のことであり、オランダ人は倹約家として名が通っている。オランダの廃棄物対策の基本的考え方は、「如何に廃棄物を出さないようにするか」という、よい意味でのケチケチ対策であるようだ。
地球温暖化の主要因として指摘されている二酸化炭素の排出量を抑制する目的から、オランダでは自動車に対する税金が高い。ガソリンには80%の税を科し、しかも、走行距離に応じても税金をかけている。倹約家のオランダ人は、なるべく車を走らせないように心掛けるというのがオランダ政府の考えらしい。アムステルダムなどの大都市では乗り入れ制限を実施しており、ハーグ市では自動車通勤には通勤手当てを支給しないそうである。世界で最初に歩行者天国をはじめたのもオランダなのだそうだ。もちろん、代わりとしての公共交通手段は利用しやすいように整備されている。国土が小さく人工密度が高いこともあり、バス路線は極めが細かく本数も多い。回数券は国内共通で、市電、地下鉄に乗る際にも利用できるので便利である。オランダ国鉄もヨーロッパの中では正確といわれており、便利である。オランダはほとんど高低差の無い平野の国であるから、自転車での移動も苦にならない。元来オランダ人は自転車好きなので(あるドイツ人は、オランダ人は嵐の中でも自転車に乗ると言っていた)、かなりの用事は自転車で済ましてしまう。ちょっとした道路の両側には、歩道の他に必ずといってよいほど自転車専用道路も整備されているし、バスや列車に自由に持ち込んでよい。自動車による排気ガスを抑制する方法は自動車の改良だけではないことを、オランダに学ぶ。
家庭から出る一般ゴミは、一枚約60円の指定されたビニール袋に入れて出さなければならない。ゴミが増えれば袋もたくさん必要となるから、お金がかかる。したがって、過剰包装など、ゴミを増やすことは好まれない。スーパーへ買い物に行くときには、買い物袋を持参しする。その方がゴミを増やさないし、買い物袋をくれないスーパーも多く、袋は買わなければならないから、オランダ人はめったに袋を忘れない。ペットボトルとビール瓶は、スーパーで換金できる仕組みになっているし、スーパー近くには、分別ゴミの回収ボックス(図1)が備え付けられているので、スーパーに行くときには、それらのビンや分別ゴミを買い物袋の中に入れて行くことも多い。家庭から空き缶、空き瓶を回収する日は設定されていないが、貯まったらその都度出しに行けるから便利であった。当然、大学でもゴミの分別回収が実施されていた。一般ゴミの他、段ボール、ガラス、電池、その他不燃物用の回収箱が、廊下のコーナーに設置されているが、その大きさは山口大学のものよりずいぶんと大きかった(図2)。
分別ゴミの回収ボックス 図1
不燃物用の回収箱 図2
世界の花の輸出量の割り合いは、切り花で7割、鉢植で5割がオランダで占められている。花の値段も安く、家々の庭や窓の多くは、きれいな花々で飾られている。街を歩いていると、交差点の近くの歩道上などで、しばしば縦横高さとも1mほどのコンクリート造りの箱を見かけるが、これには枯れた植木を土ごと捨ててよいことになっている。つまり、土も回収するのである。オランダには山がないから、石はスイスやドイツなど隣国から買ってくるという。有名なデルフト焼きに使う土も外国から買ってくる。オランダの運河の堤防(ダイク)は、日本の川と違いほとんどが自然を生かし造りになっていて、草木が生い茂り鳥が遊ぶ。国土の開発や美感を大切にする意識も、土の回収ということに繋がっているのだろう。山口はともかく、東京などの大都市では、どうしているのであろうか。日本の都会の家々の窓辺が、綺麗な鉢植えの花で飾られる日は、遠いのかもしれない。
ゴミはなるべく出さない、使えるものは回収する。多分にお金が絡んでいるところがオランダらしいと言えなくもないが、国民の90%以上がリサイクルを実行し、回収率は80%以上に達している。おそらく日本では問題はもっと複雑であろう。たとえば、野菜や果物では綺麗な包装や容器が消費者に好まれる。したがって、売り手側は、容器や包装の大きさに合う商品を生産者に要求する。そのため、収穫の基準が、食べごろではなく大きさになってしまっているという話はよく耳にする。オランダのマーケットに並ぶ、大きさの不揃いの野菜や果物は、実に新鮮で生き生きとして美味しい。リサイクルのペットボトルは傷だらけであることも多い。最初は、不良品が間違って並んでいるのかと、栓の具合を何本か確認したくらいであった。見た目にこだわらない賢い消費者になれないことが、日本のゴミ減らしやリサイクルを妨げる一つの要因として、しばしば指摘される。あらためて、実感する。単に倹約家としてだけではなく、見かけよりも実質を重視するオランダの国民性こそが、オランダのゴミ対策を効果的にしていると思われる。