リサイクル
理工学研究科 環境共生工学専攻 博士前期課程1年 疋田 心平
1.はじめに
「リサイクル」という単語は今や聞き慣れたものです。宇部市には約176,000人が暮らしていますが、この中のどれぐらいの人がリサイクルを意識したごみ捨てに取り組んでいるのでしょうか。私は昨年度に食品トレーのリサイクルに関する研究を行いましたが、食品トレーのリサイクルに取り組んでいる人は宇部市民全体の1.4%程度でした。「行政が指導をしなくてはいけない。」だとか「市民はきちんと分別すべきだ」など、リサイクルを進める上での議論を挙げればきりがありません。今回は宇部市における資源ごみ・不燃ごみ排出の現状とリサイクルのあり方について考えてみたいと思います。
2.宇部市の不燃ごみ収集
宇部市における資源・不燃ごみ収集は、宇部市内21校区ごとに月1回の割合で毎週火・木曜日に宇部市環境保全センターの14台のパッカー車を運行して行われています。宇部市内の約68,800世帯から排出されるごみは多種多様で、資源ごみはびん・缶・PETボトル(古紙は業者が回収)、不燃ごみはテレビ・扇風機・炊飯器・掃除機・ストーブ・ガスコンロ…と挙げればきりがありません。「出しておけばパッカー車が持っていってくれる。」と、ほとんどの人が思っているのではないのかと私は思います。もしそうでないとしてもこのように感じるぐらい乱雑に捨てられています。収集の現場を見ると「少しは作業員の方々に感謝しているのかなあ。」と、思ってしまいます。パッカー車が収集する際に、不燃ごみなどは現金引き替え(その場で領収書を発行)にすれば少しはごみの排出量は減るかもしれません。お金が絡むとややこしいですが1手段として有効だと私は思います。2001年の4月から家電リサイクル法(まずは冷蔵庫・洗濯機・テレビ・エアコン)が施行されますが様々な課題が目に見えています。どうなるのでしょうか。高度経済成長期には三種の神器と呼ばれた冷蔵庫・洗濯機・テレビも今や新製品が際限なく登場し、毎日捨てられています。物を大切に使う時代はもう終わって、リサイクルすればいくらでも消費できる時代にこれからなっていくのでしょうか。
3.資源ごみ(びん・缶)収集
ごみステーションごとの分別状況は様々で、地域や個人のごみ収集に対する取り組み(マナー)が表れています。地域ごとに様々な表情・性格があるといった感じです。びん・缶をビニール袋にまとめて出している場所や、青いコンテナに入れている場所もあります。後者の方がごみステーションは片づいて見えますが、作業員の方にとっては作業効率(重量)・安全性(危険物の除去)を考慮するとコンテナよりもビニール袋の方が良いそうです。また、ごみステーションも地域によっては利用者が乱雑に放り投げたのか、びん・缶・不燃物が混在している場所が多々見られます。ごみステーションは地域の顔でもあるので地域ぐるみの協力が望まれます。地域によっては一升瓶・ビールびんなどのリサイクルできるものも捨てられており、廃品回収への協力・酒屋へ持っていくといったことを行って欲しいと思いました。地域の人にとっては、「誰が指導をするのか。」という問題も出てくるでしょうが、個人が心がけておけば指導はしなくてもいいかもしれません。しかし実際は個人の努力に期待する事は簡単ではないと思うので、地域ぐるみでの協力や努力が必要です。
4.資源ごみ(PETボトル)収集
PETボトル収集は、可燃・資源・不燃ごみ収集と同様にパッカー車で行われています。PETボトルについても他のごみと同様にステーションごとの分別状況は様々で、地域や個人の取り組み(マナー)が表れています。例えば、ラベルが丁寧にはがされている地域(ラベルはPETではないためリサイクル工場ではがされている。従って工場は設備を整えなくてはならないため無駄な投資が増える。)もあれば貼ったままの地域もあったり、性状が似ているためか分別が付きにくいのかそれとも面倒なのか、塩ビボトルや缶がPETボトルの入った袋の中に混入していることもあります。こういった場合には作業員の方が取り除き、ステーションに残して可燃ごみの日に収集するようにしています。この点についてはごみの種類が多種多様なため、行政の指導が不十分とは言い切れない面もあります。しかし、回収されたPETボトルをリサイクルする際に1tのPETの中に1gの塩ビ等が混入すると品質の低下につながり再商品化できなくなるため、高品質のPETを維持するためには確実な不純物の除去が必要です。こういった経緯からPETボトルのリサイクル業者は高額の塩ビ除去装置を導入せざるをえないのがリサイクル業界の現状です。市民の取り組みは行政にも業者にも迷惑をかけてしまいます。しかし、実際にはきちんと洗浄して分別収集に協力している人もいるので、そういった人がどんどん増えていってほしいと思います。
5.おわりに
資源ごみ・不燃ごみの分別種類の増加に伴い、多様化する商品の中から市民が正しくごみを分別することが困難になってきています。リサイクルとは再資源化させることですが、行政が無料で収集しているように見えるため、ほとんどの市民は決められた日にごみステーションにただ出しているという感覚を少なからず持っているように思えます。現在行政が行っているリサイクルは、回収率を挙げるための収集を行っているように思います。これからリサイクルはどういった方向に向かっていくのでしょうか。
リサイクルできるからといって、びん・缶・PETボトルなどを大量に生産・消費してよいのでしょうか。この概念が市民に対して、びん・缶・PETボトルを資源ごみとしてごみステーションに出した時点で「リサイクルに協力した。」と思いこませてしまい、いくら行政がリサイクルしようと分別品目を増やしてもごみは減らないのだと思います。大量消費型リサイクルが市民から物を大切に使うという本来の意味でのリサイクルのあり方を忘れさせてしまったのだと思います。リサイクル率を向上させるといった数値的なことよりも、ものを大切に使うというような哲学的な考えなくして本当のリサイクルは成り立たないと思います。
「リサイクル」という単語が持つ本来の意味は何なのでしょうか。各(PETボトル・古紙・食品トレーなど)リサイクル業者の見学に何度か行っていますが、業者の方が口を揃えて言うことは「はけ口(市場)がない。」なのです。市民レベルでは、行政に無料(のように見える)で決められた日に当たり前のように収集してもらっているため、リサイクルが上手くいっているように思うかもしれません。しかし、現在のリサイクルと銘打ったリサイクルごっこでは「みなさん、リサイクルはすばらしいです。どんどん集めて下さい。」と、いうふうに感じます。しかしこの言葉には、「集めなければ会社の運営ができない。工場を運営するためには最低限の量をこういった形で集める必要があるがその量を超えて既に飽和してしまっている。」と、いうような現実問題があります。ごみ問題は本当に難しいです。
宇部市においても、ごみ行政に携わる職員の方々が市民との対話を図りながら新しい取り組みをしていこうと一生懸命頑張っています。市民の考えるリサイクル、業者の考えるリサイクル、行政の考えるリサイクルの意見のすれ違いをなくしていくように、本来の「リサイクル」という単語が持つ意味を考えなくてはなりません。リサイクルやごみの排出問題は、業者の意見を十分把握した行政による指導のもとに市民レベルからの正しい取り組みが重要だと思います。ごみ問題は難しく、行政にとっては先行き不安ではありますが、市民や行政が知恵を出し合えば必ず良い方向に向かっていくと私は思います。