ガス滅菌とその安全性について

医学部附属病院 医療材料物流センター
井東光枝

はじめに
医療機関において使用される物品は、ほとんどが滅菌された物である事は誰もが認めるところである。滅菌の方法には高圧蒸気滅菌法、ガス滅菌法、阪神淡路大震災を期に脚光をあびたプラズマ滅菌法等がある。今回は、毒性や燃焼性が高く、その取り扱いに注意を要するガス滅菌についてのべてみる。

ガス殺菌剤と酸化エチレン
ガス殺菌剤としては、酸化エチレンのほか、酸化プロピレン、ホルムアルデヒド、オゾン等があるが、医療の現場でガス滅菌と言えば酸化エチレンガスを用いて行う滅菌の事を言う。酸化エチレンは別名エチレンオキシド、エチレンオキサイド、オキシラン等と呼ばれておりEthylene Oxideの頭文字を取ってEOと略称されている。特徴あるエーテル臭のする無色透明な物質で、20℃前後で気体となる。滅菌用のEOは炭酸ガス(二酸化炭素)で希釈して高圧容器であるボンベに充填されている。当院医療材料物流センターで使用しているのはEO20%に対して炭酸ガス80%の混合ガスである。

エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌と安全性
どうすれば、作業者、患者様、環境に対する安全性を確保する事ができるか考えてみる。
作業者に対して
作業中にEOに暴露されなければ良いわけであるが、現状ではロボットではなく人間が作業している。日常業務の中でどのような時暴露される可能性があるかというと、滅菌工程終了後、エアレーターに被滅菌物を移す際の残留ガスによる暴露、滅菌器のパッキン劣化によるガス漏れ、あるいは排気設備の不備により作業室内ガス残留による暴露が考えられる。これらに対しては、マスクや手袋を装着して被滅菌物を取り扱い作業者自身が防備すること。滅菌器については定期的に保守点検を行いガス漏れを未然に防ぐこと。また職場環境においては、換気扇を取り付けてガス濃度を極力低く保つこと。さらに定期的に作業環境のチェックをしたり、ガスモニターを設置することが望ましい。
作業者に対するEOG暴露について米国労働衛生局が1984年に許容上限濃度(8時間荷重平均)1ppmと公布している。日本では日本産業衛生学会が1992年作業中の空気中の許容濃度として1ppmという値を示している。当然のことながら、当部署の職員もガスモニターの1ppm以下の数値を確認しながら作業を行っている。

患者様に対して
EOG滅菌された医療材料を介して被害は起こりうる。ガスの毒性や物質表面に吸着する性質を利用して滅菌するのであるから、滅菌終了直後の被滅菌物には高濃度のEOが付着している。ガスエアレーター〈専用ガス抜き装置〉に入れ48時間かけて残留ガスを排除して各部署に供給している。また、ポリ塩化ビニール製品に放射線滅菌を施し、滅菌済みディスポ製品として市販されている医療用具は、院内で再びEOG滅菌する事はできない。塩素とEOが化学反応を起こし、EOより毒性の強いエチレンクロロヒドリンを生成するためである。医療現場から急に必要になったから急いで供給して欲しいとか、高価だから再滅菌して欲しいと依頼されても安易に受け入れられない理由である。滅菌を担当する者が原則にもとづいて、正しく作業する事が、患者様の安全を確保する事になるからである。

環境に対して
滅菌器やエアレーターから放出されるEOGの排出規制について、米国(カルフォルニア州等)では、EOの年間使用量に合わせて排出する規制を設けている。日本では規制はないが1996年有害大気汚染物質で健康リスクが高いと考えられる22件の中にリストアップされ、事業者に自主規制を図っている。現在国内の病院においては、脱気用の水流式ポンプから廃水に溶かして下水道に流す方法、または大気に排出する方法が多く用いられている。分解装置を通して無毒化して排出する方法は、一部の医療用メーカーが自主的に行っているのが現状であるが。ただし、最近ではこの分解装置を設置する病院も増加しつつある。

おわりに
ガス滅菌は今後使用されないであろうといわれた時期もあったが、低温で優れた殺菌効果をもつEOG滅菌法は当分継続されると思う。いずれにしても安全に扱うために作業者、設備、環境に対しての配慮が重要になってくる。簡便なため、一部の研究室で用いられていると聞くアンプローレンの使用は、安全性の面で大きな問題がある点を強調しておきたい。