環境問題に関してーアジア、特に中国とのかかわりー
                             経済学部   上杉信敬

 環境問題は社会の諸々の事象の内でなお関心をよぶ重要問題のうちの一つである。この1年内外で起きた環境問題を挙げて見ると以下のようなことがすぐに出て来る。2月、兵庫県西宮市の国道等での自動車騒音、排ガス、微粒子状浮遊物に対する公害訴訟で、国、道路公団の賠償責任を認めただけではなく、事前差し止めをはじめて認める判決がだされた(現在大阪高裁で審議中)。さらに東京都はディーゼル車の排ガス規制のためより厳しい基準のクリアーを2005年から実施しようとしている。しかし依然大都市における騒音、排ガス問題は深刻であり、騒音についても環境基準の達成は観測地の半分にもならないくらいであるという。次に環境アセスメントは法律も制定施行されたが、例えば2005年は愛知万博の開催の準備において一定影響を与えつつある。海上の森など里山の緑を守り、オオタカなどの希少動物を守るため、環境アセスメントの結果、開発面積が大幅に縮小された。第3に産業廃棄物問題に関しても東京都日出町の処分場拡張問題では一坪地主等市民が座り込む中で東京都は実力で代執行を強行しようとした。又、大量生産、大量消費のサイクルを断ち切るための生産者の側で製品を一定負担する家電リサイクル法(再生法)が来年2001年実施されようとしており、準備が行われている。第4に地球の温暖化とかかわるCO2等の発生と関係するエネルギーの利用と関係して化石燃料だけでなく太陽光、風力、潮力、バイオなどの利用についていろいろ試みがなされている。第5に昨年9月1民間企業の臨界事故による茨城県東海村の放射能汚染事故は多くの国民をそのずさんな管理の点で驚かせたが、原発の増発に関しても山口県上関町の建設をめぐって多くの賛否の議論が起こっている。又アセスメントの評価について周辺海域でのスナメリや貝類の希少動物の保全の問題で関心を呼んでいる、希少種についてはさらにトキの成育も関心をよんでいる。などなど。
ところで私は法学の中で行政法を専門としているが、行政法の領域でも環境問題は重要な位置を占めており、上に挙げた内いくつかは正に行政法の問題でもあり、自分としても関心をもっているものでもある。そうした中で昨今のグローバリゼーションの流れの中でアジアにおける日本という視点も注目を集めて来ている。この小稿において自分とアジア特に中国とのかかわりで環境問題をどのように見て来たかを跡づけてそのことを考えてみた。山口大学経済学部でも東亜経済研究所を有しており、先輩の先生方を中心に運営されて来たが、昨年は「アジアの県境問題」でシンポジウムを持ったが、アジアの圧縮型環境問題ということが問題とされた。又、現在の人文社会科学系博士課程の構想もアジア研究が大きな柱となっている。
 春先に大陸の黄砂が飛来する日本、又、最近は酸性雨の影響も重大ではないかと言われはじめているが、大陸中国の影響があるのではないかと言われている(今のところ朝鮮半島の分とともに量的影響はどのくらいかははっきりしていなようではあるが)。さらに海洋汚染問題も加えて環境問題は直接に我が国の環境問題であることもあるのである。中国は環境保全を著しく困難にしている国と言われている。ある著者によると、広大な国土に多数の人口であるがすでに第2位のCO2排出国である。自然条件としては@平坦な地形で従って汚染物質が滞留する、A雨が少ない、B歴史的に開墾が過剰に進み縁が少ない、森林面積は約8%という。さらに経済条件として@重工業偏重の経済構造であり、A鉱山資源の国内依存が高く、大量のボタや洗練による廃棄物を生み出す、Bエネルギーの石炭依存が大で、硫黄含有率が高いものが多い。C郷鎮企業の散在で、農村部に汚染物をばらまく、D都市と工場の内陸立地、E急速な都市化が進み、都市環境に大きな負荷を与える、などなどをそれらの原因要素の主なものとして挙げている。私はここ10年以上にわたって何度か中国を訪れてきたが、そこで見た状況を列記すると次のようになる。
1985年8月、ヨーロッパを訪れる途中に中国の北京を通過したが、はじめて万里の長城を見たが、長城の外側にはステップ風の景色が迫っているのを見てびっくりした。又、汽車で北京からモンゴルを抜けたが、河北省という北京周辺でも緑が少なくなり、張家口市付近でも町の近くに少々緑があるだけで、あとは土色の世界が広がっていた。1994年8月、四川省の重慶市を訪れ、長江を船で下り、三峡等を通過した。その際、酸性雨のすごさと大気汚染の重慶を確かめるつもりであった。しかし1990年頃の話しとは少々異なるのか、空気は少しもやっていたが、良くわからなかった。ただ土色の濁流の長江に所々、着色された沿線の工場、生活排水がながれこんでいたり、ゴミが多量に浮いている所を通った。1997年8月から2ヶ月余り、山東省の済南市の山東大学に研修で滞在したが、海にも比較的近く、1200mmを越える雨量(日本の6割強)がありながら、済南―泰安―曲阜と結ぶ国道(北京―上海間の鉄道に平行して走っている)をバスで通ったが、沿線の山ははげ山が連なっていた。帰路に河南省の 州から済南までバスで帰ったが山東省内で黄河に沿うようなルートのわきの山、かの有名な梁山、越した峠には木がほとんどはえていなかった。又、黄河には水がわずかしか流れておらず、水不足の問題はやはり深刻なのかと思った。1998年11月、上海市において東アジア行政法学会が開催された際、隣の 江省杭州市を訪れ、かの有名な西湖を見、天下の絶景を見ることができたが、美しい湖面にアオコのようなものが多いように思えた。清掃の舟も出ていたが、美しい湖水の保全が依然重要ではなかろうかと感じた。2000年10月、北京を訪れ、資料収集を行うとともに、新強省ウルチム市を訪れる予定であったが(体調が不調で中止)、「北京秋天」と呼ばれるすばらしい晴天も、午前中はモヤがかかったようによどんだ様子であった。昨年よりは改善したとのことであるが、車も増えている。天気予報では「軽微な汚染」とは言っていたが気になった。経済の急成長を今後も続けようとしているが、環境対策は依然重要な課題であろうと感じたところである。政府などの必死の努力もあり、又、日本人としても研究面などで問題提起したり、植林事業に技術援助したり、資金提供したり、ボランティアで労働奉仕しているものが報じられている。環境保全事業に関してさまざまな協力、貢献、交流がいろいろとなされている。それに比べ、私としてはほとんど明確なものは行っていないので、これではいかんとは思っているところではあるが、関心を持ち続け何らかの関与を心がけることが依然重要とも思うところである。