山口大学と環境保全
経済学部長 平野充好
1、経済学部における環境問題
 経済学部における環境保全ということで考えると、まず第一に経済学部周辺の緑化問題をあげねばならないであろう。緑豊かな亀山の地から移転して今年で27年。亀山にあった代表的な樹木(大銀杏、多行松、クスノキ、五葉松等)を幾本も移植させたものの、当初の経済学部校舎周辺は必ずしも十分な樹木環境ではなかった。その後20数年間、当初移植した樹木も成長するとともに、同窓同期会からの寄附、ゼミナール卒業記念植樹、退官記念植樹が続いた。しかし、折角植樹したのに、土地や木の管理に問題があったせいか、成長が悪かったり、枯れる木があった。そのために、水はけをよくするための措置、施肥、夏の水やり等永年にわたる世話が必要であった。ある教官の献身的熱意が今日の経済学部の緑を作っている。経済学部中庭の整備、学部周辺の全体的な緑の調和をご覧あれ。木は植えればいいというものではない。植樹という場合に、木を選び、場所を選び、土を選びそして暖かく育てる心が大切である(写真参照)。
 第二に、リサイクル問題であるが、ささやかながら学部として組織的に取り組んでいる試みがある。他学部でも行われているようであるが、封筒の複数回利用である。学部メンバーからの発案があり、大封筒を少なくとも12回は利用しようということで、封筒の表紙に台紙を張って利用しやすいようにしている。その台紙には、日付、宛名、差出人等の記載欄等が12行用意され、「折り返しのふたは糊付けせずセロハンテープ等で固定して下さい」と書かれている。学内便でも相当数利用させていただいている。さらに、今後もこの台紙を張って封筒を利用するとともに、封筒の中に台紙を余分に一枚入れて利用を促進してみようと思っている(写真参照)。
 ここであげた緑化問題もリサイクル問題もいずれも全学的な課題である。環境には国境がない。最初は身近なところから始めることが肝要。その上、学部の枠を超えて全学的に広げていくことも重要である。
2、山口大学における今後の環境問題
 山口大学の環境保全という場合には何といっても、前述したように、学部を超えて全学的な課題として取り組んでいくことであろう。本排水処理センターは、排水処理という観点を超えて幅広く環境保全に対して提言するなど多くの役割を果たしているが、学内には環境に関連して解決すべき課題は多いように思われる。例えば、学内緑化問題、ペーパーリダクション問題などは早急に取り組まねばならない問題であろう。
 もう一つは、地域社会との関連で環境問題、環境保全を考えていくことだと思う。緑化の課題にしろ、排水問題、ゴミ問題にしろ地域との協力は不可欠である。そのために、大学側と地域側とで「平川地区環境委員会」「常盤地区環境委員会」及び「小串地区環境委員会」を組織してはどうであろうか。地域だけでできることから始めて、例えば平川地区の緑化つくりを検討したり、常盤地区の環境問題を検討することができないだろうか。地域で解決できない課題がでてきたら市や県に働きかけることも考えていい。
3、付言:環境権について
 何故今回この「山口大学と環境保全」という特集に私に執筆依頼がきたのか。経済学部や山口大学における環境保全や環境問題について知見を述べろということなのであろうか。そういう意味では、次に書くことは余分なことかもしれないが、最後に、私の専門の法律学の立場から、環境権ということについて簡単に言及させて貰おうと思う。
 末川博創始の新法学辞典によると、「環境権とは、良い環境を享受する権利のことである。この権利は、現代における急速な科学技術の進歩に伴う産業発展、その無制約な活動に伴う人為的な環境破壊の下で、その危機を克服し、国民の環境的利益を守るための基本的法理である。」環境権の名の下で保護されるべき環境とは何か、水質汚濁、大気汚染等がどの程度あれば環境権侵害といいうるのか、環境権は所有権と同じ様なものか、等々議論があるが、この権利は、積極的に、国、地方自治体に対し、良い環境を確保するよう要求しうる権能を含む権利として、さらには、企業活動の自由に対する制約原理として機能している。その具体的結果として、たとえば、大気汚染防止法における事業者の無過失責任の法定や各地方自治体における環境基本条例制定の例を挙げることができる。しかしながら、さらに一歩踏み込んで、環境権を理由に、企業等によって環境破壊されたから損害賠償請求を実現するとか、企業等によって環境破壊されたからその企業等に行為の差止請求するといったことは、現段階では裁判所によって認められていない。
平成5年制定の環境基本法は、その第3条において次のように定める。「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行わなければならない。」これが、環境権の趣旨するところであり、私たちみんなが協働して環境権の内容を実現していかなければならないことを意味している。   以上