l.今日の環境問題

                             工学部 中西  弘

 環境問題をおろそかにして来た反省から,大きな社会問題となった環境問題について,この20年の間に破壊からの修復,保全への道づくり等,環境保全の為に行政も企業も国民も大きな努力を払って来た。勿論,大学でも例外ではない。学内の実験室排水,廃葉有機溶剤,生活排水,あるいは廃棄物等についての処理・処分システムを確立し,運営して来た。こうした社会の環境保全システムの整備と共に環境問題もやや沈静化して来て培り,環境問題は最早解決済みと言う声すら聞かれる。また,環境行政は後退してきていると言う声もある。しかしながら,これは環境問題が社会の緊急の課題として特に世人の注目を集めた時期は過ぎたと言う意味であって,一部では問題はあるとしても全体としては,環境問題は市民権を得て,着実に人々の心の中に深く定着して来ており,環境行政の組織も整備され,公共または企業の公害防止施設の整備とあいまって,軌道に乗った環境保全対策が展開されつつあると言えよう。こう言ってしまえば環境間題の前途はバラ色のように見えるが,実際には容易に解決出来ない難問の数数を残している。こうした点を踏まえて今日の環境問題を考えて見るよう。そこには次のような末解決の問題が残されている。              l)社会整備の遅れ:下水道の整備が遅れている。生活雑排水(台所,風呂場等の排水)の垂れ流しが続いている。し尿浄化槽の不備が指摘されている。廃棄物の処分地の確保が困難で深刻である。                          2)水質汚濁改善の遅れ:都市河川の汚れが跡を絶たない。潮沼の富栄養化が一向に改善されない。依然として閉鎖性海域の汚濁が認められる。地下水汚染の脅威にさらきれている。                                 3)大気汚染の継続:窒素酸化物,光化学オキシダント,浮遊粒子状物質等の汚染が続いている。                                 4)化学物質汚染の脅威二先端技術産業からの汚染,現在生産されている数万点におよぶ化学物質の環境中での行万や挙動の把握が不十分である。           5)都市化の進行に判う環境整備の遅れ:交通公害(騒音,排気ガス),水辺環境の不足,水道水源の汚染,生活排水の汚れ,都市ごみの増大と処理の不足,近隣騒音,緑地の減少等の間題が山積している。                       6)地球規模での環境破壊の進行:化石燃料使用量増加による酸性雨汚染の間題,炭酸ガスの増加,石油による海洋汚染,熱帯林の減少,砂漠化の進行等が深刻である。                                     こうした問題は,一朝一夕には解決出来ないが不可能ではない。国内問題は,我が国独自の努力によって解決が計れるし,地域全体の問題も国際間の協力によってその解決を計らねばならない。我々は夢々その努力を怠ってはならないのである。ここで身近な問題から大きい問題に至るまで具体的な対策を可能な限り考えてみよう。

1.生活排水対策

 下水道の整備,合併浄化槽の設置,生活夷践活動による台所排水の改善,洗剤の無リン化等既に引かれた路線ではるが,ひたすらその普及率の向上に努めるべきこと。もっともこの間,それぞれの分野においての技術的な進歩,改善の余地も多く残している。

2.廃棄物処理対策

 埋立最終処分地の確保が遅れている。処理・処分場の立地に関しては,環境アセスメント,2次公害の防止,地域住民の合意等多くの手続きを経なけれぱならない。事業者側も住民側もお互いに工ゴを捨て,大局的見地から誠意を持ってその推進を計らねぱならない。このことは,言うに易く,行うに困難なことであるが,我々の良識によって是非達成しなけれぱならない事柄である。

3.化学物質による汚染防止

 新化学物質については,化審法によって環境影響も厳重に審査されているが,問題の化学物質については,環境モニタリングシステムを整備して,問題が生じた場合には速やかに対処出釆るよう,常に環境調査を怠ることなく監視を続けなけれぱならない。特に環境中での挙動についての情報が不足している。

4.化石燃料の省エネルギー,クリーンエネルギーの活用

 大気汚染の対策は,汚染物質の排出口での浄化や拡散万法の改善と言った対処的な対策のみならず,抜本的な対策として化石撚料の消費量を抑えることやクリンェネルギーを開発してその活用を計ること等がある。特に地球規模の環境汚染に関しては省ェネルギとクリーンェネルギーの活用以外に効果的な万法はなく,各国がこぞってその実現に努力しなけれぱならない。

5.都市域の問題

 過密都市がもたらす都市公害についてば,都市計画の段階から環境問題を十分に組込んだ都市造りを行わなけれぱならない。既存の都市においても,再開発を含めて快的な環境都市造りに努力しなければならない。

6.森林,緑の確立

 熱帯雨林の保存,砂漠化の防止には,樹木の伐採の抑制と植林の強化がある。砂漢域の樹木の伐採にはその地域の住民の生活がかっており,深刻な問題を含んでいる。また,我が国を始め先進国が熱帯林の輸入量を増やしていることにも緑の減少に関係がある。要は森林の生産が消費を上回ることが必要条件であり,砂漠民への経済援助や大規模な植林事業を行う等全世界が協力してこの問題にあたらなければならない。 以上に述べた如く,環境間題の提起やその解決万法についてば,これまでに多くの実績が得られて釆たが,その施策の実行という大仕事が今後に残されている。その実現の為には,国民の生活様式の変更を含めて,国の政治の万向も変れさせる⊂とが必要である。また,世界各国の協調が不可欠である。それは省資源,省エネルギーの生活であり,その為には先ず何よりも国民のコンセンサスを得ることが必

要である。ここに提起された問題を全て解決することは,世界中の軍備をなくす以上に困難であるかもしれないが,きしずめ実現の容易なところから手掛けることが肝要であり,その達成は国民一人一人の環境保全に対する熱意いかんにかかっていると言えよう。