1  巻頭言   ― 環境整備によせて


                                            学長 粟屋 和彦


 環境保全といえば排水処理とか大気汚染処理といったいわゆる公害対策が頭に浮かんでくる。これは大学においても例外ではなく,本誌の内容がその方向に傾くことは当然と思われる。しかし,私はこのほか,大学では学生諸君が喜んで勉学にいそしみ,若い研究者が楽しんで研究に打ちこめる環度をつくることもまた大切なことと考えている。その意味で大学としては構内を騒音から守り,緑の樹木をふやして,思索に適した場をつくり出すことを心掛けるべきであろう。ここではこういったいわゆるアメニティ(快適な環境づくり)のことを念頭に置いて筆を進めてみたい。
 本学の環境整備で急がなくてはならないのは大学会館前庭の整備であろう。この問題は私が学長に就任したときからの懸案であった。しかし,この前庭の区域が縄文・弥生時代の重要な遺跡を含むことから,その整備に関して,長い時間をかけて埋蔵文化財運営委員会と吉田地区環境整備委員会との間で会合を持ち,討議が重ねられ,ようやく一応の成案が得られたのは約3年前の60年10月11日であった。そして,最近ようやく予算的にもその整備の見通しがついてきたので,その成案に沿って大学会館前庭造成計画をたて,整備を進める段取りになった。つい最近,11月1日に吉田地区整備委員会を開き.その了承を得たところである。この区域は本学の景観上も中心となるべき地域の一つであるので,立派に整備されることを期待したい。
 吉田地区でもう一つ,整備上どうしても考慮しておかねばならない重要課題は県と市の大学通り拡張計画に伴う大学正門とその周辺の整備の問題である。これは現在,行政当局によって進められつつある大学通りの道路の拡幅作業に合せて,大学正門と前庭の改修が必要になってきたことによるものである。本学としても,これを機会に正門を大学にふさわしい立派な門に改修し,前庭も十分にとるとともに,駐車場と車線ならびに人道の再整備をすることを考えなくてはならない。このことについても,さきの吉田地区環境整備委員会に報告し.検討をはじめて頂くようお願いしたところである。
 つぎに,無関心でいられないのは小串地区医学部構内で付属病院外来棟の前を東西に貫通する計画のある幹線的側路(柳ケ瀬丸河内線)のことである。この道路建設については大学としては大学の権威と学園の静穏を守る上から,20年近くも前から宇部市当局に対し慎重な配慮を要請し続けてきたところであるが,最近大学の意向が無視されかねない状況もみられろので,現在,市当局に文書が善処を要望しているところである。大学としては権威と環境を守るという見地から,不退転の決意で行政に配慮を促す必要があると考えている。この問題はひとり大学だけの問題ではなく,教育県を自負してきた山口県にとっても大問題であり,処理を誤れば県民の文化の程度を疑われかねないであろう。この問題に対する全学的な関心を切望して止まない。
 このほかにも,環境整備上各部局がかかえている問題は多いであろう。いずれもできるだけ早くとり上げて整備の実をあげ,勉学と研究の場にふさわしい学園とすることを心掛けたい。最後にとり上げておきたいことが一つある。それは学内,とくに吉田地区にある中国からおくられた樹木のことである,現在,学内には59年5月頃植えられた喜樹,杜中,香椿,秤柳の計9本と昭和60年11月に植えられた槽樹,梓樹,黄櫨の計22本が生着している。このうち,とくに注目したいのは楷樹である。楷樹は山東省曲阜の孔子ゆかりの三孔の地の一つ孔林に子貢が植樹したものの遺種と言い伝えられている樹木である。これは孔子に関係があるので孔子木といわれる。我国には現在,有名な湯島聖堂のものを含めて50余箇所に植えられているという。山東大学と姉妹関係にある本学としては大切に育てたい樹木である。現在,この楷樹は教育学部構内に4本,経済学部構内に3本,図書館本館前に1本,大学会館前に4本,本部排水処理施設前に2本,計14本の幼木が育ちつつある。今は幼木であるが,これから30年、50年とたつうちにまさに楷の名にふさわしい整然と枝葉を伸ばした亨々たる大木となり,学内にその偉容を誇るようになるであろう。そして,その頃にはこの大樹の周囲には緑の芝生があり,大樹の影で或は寝そべり,或は歩いて思索にふける学研の徒がみられるであろう。このようにしてようやく大学にふきわしい環境が整うのである。大学の環境整備とはそんなものであると思う。                                      (63−11―l0)