研究科長挨拶

2011年4月

一 騎 当 千
   
木 曾 康 郎

 

 平成23(2011)年4月から,山口大学大学院連合獣医学研究科長に就任しました木曾康郎です。

 このたびの東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)によって,甚大な被害を受けられたすべての被災者の方々に,研究科を代表して,衷心よりお見舞い申し上げます。今なお,救助を待っておられる被災地のみなさまの安全と,一日も早い復興をお祈り申し上げます。また,救助活動にあたっておられる方々にも敬意を表します。本研究科でも,被災地に実家のある大学院生が在籍しており,本当に大変な状況ですが,踏ん張っていただきたいと思います。本研究科も全力でサポートに努めたいと考えております。

 本研究科は,平成2(1990)年に標準修了年限4年の博士課程の独立研究科として,山口大学に設立されました。設立時の構成大学は,鳥取大学,宮崎大学,鹿児島大学及び山口大学でしたが,平成22(2010)年4月に宮崎大学は新しい道を歩むこととなり,現在の構成大学は鳥取大学,鹿児島大学及び山口大学となりました。既存の設置形態は維持したまま連合編成され,各大学の密接な連携協力のもとに運営されています(詳細は本研究科HPを参照して下さい)。その沿革も立地条件も特色も異なる3大学が一つの独立した連合獣医学研究科を創設したことで,多彩な研究テーマを擁することが可能となり,多様な社会のニーズに応える体制が整いました。獣医学は,基礎から応用,さらには臨床分野までカバーする「個の生物学」として完結した学問体系を有していますので,多種多様な研究テーマの設定は必然の結果であり,実際,これまでに輩出した獣医学博士達は国内外の幅広い分野で活躍しています。

 研究科は「研究の足場」です。「科学技術基本法」(平成7年制定)以来,天然資源に乏しい我が国で,経済社会の発展,国民福祉向上,国際社会の持続的発展には,科学技術の促進とそのための人材育成が最重要であるとの認識が共有されてきています。本研究科は,「獣医学に関する高度な専門的能力と豊かな学識を備え,かつ,柔軟な思考力と広い視野を持って,社会の多様な方面で活躍できる高級技術者及び独創的な研究をなし得る研究者を養成することにより,学術の進歩及び社会の発展に寄与する」(設置趣旨)ことを目的としています。このミッションをさらに推し進めるためには「研究の高度化」が必要不可欠です。研究の活性度を計るのに三角形が比喩としてよく用いられます。底辺が研究の多様性,高さが研究の高度化を示し,その面積が研究活性度を表すというわけですが,3大学獣医学科の連合により,底辺は担保されていますので,高さを増加させる方途を考えなければなりません。元より,3大学の各獣医学科が自らの方針で高くなることが大切ですが,本研究科の基礎,病態・予防,臨床の3連合講座を横断する「橋渡し研究」を推進することが最重要と考えています。また,国内外の他研究機関との連携大学院は,優秀な学生や留学生の確保という観点からだけではなく,3分野の橋渡しのためには世界との協力が必要で,従来の分野や手法にこだわらない獣医学研究に必要な実践の場としても重要です。これらの支援・推進により,研究の活性度を高めたいと思っています。

 昨年の口蹄疫や鳥インフルエンザの人獣共通感染症に限らず,現在から未来の我々の社会は生命や疾患,環境や資源,エネルギー等の多くの深刻な課題に直面しています。これらの諸問題は複合的で、その解決には多くの分野の協力連携が必要で,様々な場面で獣医学的知識を持つオピニオンリーダーが今ほど求められたことはありません。この一騎当千のオピニオンリーダーを育てることが本研究科の使命であると考えています。

 本研究科創立20年を振り返ると,先人たちのご尽力により,新しい研究テーマや教育の実質化の観点から,多くの成果が見てとれます。新しいタイプの獣医学博士が育っているのも確かです。3大学の協力の下に本研究科をさらに発展させなければなりません。そのためには,自らが研究のニーズとシーズをとらえて研究を遂行し,情報や人材を世界に求め,幅広い協力を得て,その成果を社会に発信していかなければならない,また,学生の研究心を涵養しなければならないと強く思っています。

 皆さまのご支援,また,本研究科に対する率直なご意見やご助言をお寄せいただきますようお願い申し上げます。