研究科長挨拶

2013年4月 

人は石垣,人は城
   

連合獣医学研究科長
木 曾 康 郎


 研究科長に就任して2年が過ぎました。昨年は,世界的に「政治の年」にあたり,我が国でも政権交代がありました。最も嬉しいニュースは山中伸弥教授のノーベル生理学・医学賞の受賞でしたし,ロンドン五輪でメダル獲得数が史上最多というのも喜ばしい話でした。東京スカイツリーのオープンも高さ世界一という点で関心が持たれました。経済情勢は依然として不透明ですが,閉塞感からは脱却できそうな気配も出てきました。ただ,世界の各地で近隣諸国と緊張感が高まっているのは憂慮すべき関心事です。そうした中で,大学においても,各学部・研究科で,「ミッションの再定義」が始まりました。

 本研究科は設立23年を経過し,これまでに365名(2013.3.31現在)に博士号を授与してきており,地方大学を結んだ学位授与機関として,一定の機能を果たしてきました。「ミッションの再定義」と言っても,「獣医学に関する高度な専門的知識を持ち,獣医学分野のリーダーのみならず国際貢献ができる研究者・高度専門職業人を育成する」ことには何ら変わりはありません。このミッションに向けて,教育の実質化や研究の高度化に関する具体的な方策を検討することになります。

 沿革も立地条件も特色も異なる3大学が連合し,独立した本研究科は,いわば,城を持たない集団です。城を持たないと言えば,思い出すのが,武田信玄です。戦乱の世,他国は堅固な城を築いている時代にあって,武田信玄は在世中,甲斐国内に新たな城を一つとして築かなかったのは誰もが知っている話です。むろん,甲斐は国土全体が山々で囲まれ,巨大な城郭のような地勢をしていたため,この地理的条件を熟知し,それを十二分に生かしたことによるものです。が,それだけではありません,武田信玄の軍法書「甲陽軍艦」に「人は石垣,人は城,人は堀」という有名なフレーズがあります。つまり,「勝敗を決めるのは堅固な城ではなく,人の力であって,個人の力量や特徴をつかみ,彼らの才能を充分発揮できる集団こそ,城である」という思想の表れです。このフレーズの後に,「情けは味方,仇は敵」と続きます。つまり,「人には情理を尽くし,誠実な態度をとれば,相手の心に届き,人を惹きつけることができる。逆に,相手に恨まれるようなことをすれば,害意を抱くようになる」という意味です。時代を超えて,現代においても,企業経営者や組織管理者がこのフレーズを座右の銘として愛しています。武田信玄の凄いところは,このフレーズの思想を裏打ちする,徹底した能力主義と合議制を貫いたところにあります。かの有名な山本勘助の登用しかり,自分を含めての武田24将もしかり。

 話を元へ,本研究科は城を持たない集団です。「ミッションの再定義」の過程で,教育の実質化や研究の高度化に向けて,横断的な研究拠点構想,客員教員制度の創設,連携大学院の拡充,海外の大学院との共同教育課程の模索等々,さらなる努力をしなければなりませんが,大きな戦略を描く「頭脳集団」だけで成り立つはずもなく,多種多様な人材が居てこその「最強の人の集団」です。今こそ,足下を固める時期だと思います。構成教員の皆様には,正副に限らず,学生との徹底した話し合いを通しての指導をお願いします。共通セミナーの有効利用も良いでしょうし,社会人学生にはPCテレビやフェースブック等を通じても良いですし,細かな指導をお願いしておきたいと思います。代議員には,本研究科の問題点や今後のあり方等に関して,各大学で素直な意見を聞いて頂ければと思います。代議員会では,それらを受けて,「ミッションの再定義」に向けて,教育の実質化や研究の高度化に関する具体的な方策を検討したいと思います。構成員皆様の建設的なアイデアをよろしくお願いします

 2013年4