プロテオスタシスを維持するためのミトコンドリア不良タンパク質応答
中井 彰、瀧井良祐、藤本充章
ミトコンドリアダイナミクス〜機能研究から疾患・老化まで〜
(株式会社エヌ・ティー・エス)p65-74, 2021
http://www.nts-book.co.jp/item/detail/summary/bio/20211100_252.html
<概要>細胞はタンパク質の変性に適応するために、遺伝子発現を介した複数のタンパク質毒性ストレス応答機構を備えている。その中で、大腸菌からヒトまでの進化の過程で保存された仕組みが熱ショック応答である。熱ショック応答はシャペロンとして働く熱ショックタンパク質(HSP)の発現誘導を特徴とする。一方、小胞体とミトコンドリアにおける同様の適応機構はそれぞれ小胞体ストレス応答(UPRER)およびミトコンドリア不良タンパク質応答(mitochondrial UPR, UPRmt)と呼ばれ、やはり各々の小器官で働くシャペロンとタンパク質分解酵素などが誘導される。これまでに、ミトコンドリア内のタンパク質ミスフォールディングで誘導される線虫に独自のUPRmt経路が明らかにされ、その経路がミトコンドリア機能の維持に重要であることが分かってきた。一方、哺乳動物細胞では線虫のUPRmt経路に相当するものが示唆されているが、その他のいくつかの経路も重要であることも明らかとなっている。本稿では、ミトコンドリア機能と密接に関連するミトコンドリアプロテオスタシスの調節機構の理解の現状について概説している。