転写因子ATF1の精子形成における役割を解明


Testicular localization of activating transcription factor 1 and its potential function during spermatogenesis

Masanori Tabara, Koji Shiraishi, Ryosuke Takii, Mitsuaki Fujimoto, Akira Nakai, Hideyasu Matsuyama
Biology of Reproduction (2021) in press. DOI: 10.1093/biolre/ioab099 (First published May 18)

精子形成の過程は転写因子を含む様々な因子群によって厳密に制御されている。その中でも、熱ショック転写因子群(HSFs)と熱ショックタンパク質群(HSPs)は重要な役割を担うことが知られている。これまでに当研究室の研究から、CREB/ATFファミリー転写因子ATF1がHSF1のコアクチベーターとして熱ストレス時のHSPの発現を調節することが分かっていた。今回、我々(医化学講座−泌尿器科学講座の共同研究グループ)は、マウスにおけるATF1を介したHSP発現調節と生理機能の解析を行った。まず、ATF1は全ての組織で発現するが、特に精巣と脾臓で高い発現があることがわかった。組織全体として精巣と脾臓のHSP発現には顕著な差を認めないが、肝臓や腎臓では一部のHSPの発現に大きな差が認められた。免疫組織学的解析から、ATF1は精原細胞の核に局在し、増殖マーカーであるPCNAと共局在していた。そして、ATF1欠損マウスの精細管は全ての発達段階の精子形成細胞が存在していた。しかし、精母細胞の数は減少し、それに伴ってPCNAの発現細胞は減少していた。ATF1欠損マウスは不妊ではないが、成熟した精子の数も減少を認めた。以上の結果は、ATF1は精原細胞の増殖と精子の産生に重要な役割を担うことを示す。

 これまでにCREB/ATFファミリーに属するCREMが精子形成に必須であることは知られていたが、その過程にATF1が役割を担うことは知られていなかった。本研究により、不妊の原因の一つとしてATF1遺伝子の異常の可能性が示唆された。