肝がんに対する経口鉄キレート剤のマウスモデルおよび臨床試験の効果(臨床検査・腫瘍学、消化器内科学、山口大学獣医学部、他)


Effects of an oral iron chelator, deferasirox, on advanced hepatocellular carcinoma.
Saeki I, Yamamoto N, Yamasaki T, Takami T, Maeda M, Fujisawa K, Iwamoto T, Matsumoto T, Hidaka I, Ishikawa T, Uchida K, Tani K, Sakaida I.
World J Gastroenterol. 22(40), 8967-8977, 2016.

2011年、我々は世界に先駆けて「抗癌剤抵抗性の進行肝細胞癌に対する鉄キレート剤動注療法」を報告した(N Engl J Med. 2011 Aug 11;365(6):576-8.)。本論文は、この鉄キレート剤治療の経口剤Deferasirox(DFO)についての基礎および臨床研究である。NEJMで報告した鉄キレート剤Deferoxamine(DFO)は注射剤であり、半減期が10~20分と短いため持続注入する必要があるのに対し、経口鉄キレート剤DFXは、半減期が8~16時間と長く、経口投与であることから患者へのコンプライアンスがよいというメリットがある。結果を以下に示す。
基礎研究:[In vitro]3種類の肝癌細胞株(HepG2, Hep3B, Huh7)は容量依存性に増殖抑制およびアポトーシスを認めた。[In vivo]DENにより5カ月かけて肝腫瘍作成したマウスにDFXを投与したところ腫瘍抑制効果を認めた。
臨床研究:抗癌剤抵抗性進行肝癌6例に対して、dose escalation trialを行ったが、全例で腎機能障害、4例で食欲不振を認めた。とくに腎障害はDFX減量で改善したが、腎障害によりdose escalationをすることが不可能であった。治療評価可能の5例では、不変1例、増悪4例で奏効率0%、1年生存率17%であった。
結論として、経口鉄キレート剤は、基礎的には腫瘍抑制効果を示したが、臨床的には薬剤量が不十分であるため、有用性を見いだせなかった。