第6回 難治性疾患トランスレーションセミナーを開催しました

上記セミナーが、2018年3月16日(金)16:00—19:00に山口大学医学部霜仁会館3階多目的ホールにおいて開催されました。本研究拠点は4年が経過し、発足当初から研究背景も大きく変化していることから新たな方向を目指して「ゲノム解析を基盤とするがんと老化関連疾患の病態解明」というテーマで開催しました。拠点構成員以外にも、このテーマと関連して活発に研究させておられる医学部と獣医学部の講座の先生方にもゲストとしてご講演いただきました。  
 まず、藤本充章先生(医化学講座)は、タンパク質毒性ストレス条件下でのHSF1-PARP13-PARP1複合体を介する遺伝子発現調節機構を紹介しました。この複合体形成はDNA損傷ストレスによっても制御されており、DNAとタンパク質の恒常性機構がリンクしていることを示しました。島田緑先生(獣医学部生化学分野)には、DNA損傷ストレス条件下でのリン酸化を介する遺伝子発現調節機構を中心に紹介していただきました。特に、独自に同定したChk1によるヒストンH3-T11のリン酸化が重要な役割を演じていることを示されました。環境変化が、転写因子やヒストンタンパク質の翻訳後修飾や相互作用調節を介して遺伝発現の変化へと転換される過程が明らかになりつつある様子がわかりました。前川亮先生(産科婦人科学講座)は子宮内膜症の発症は環境と関連するエピゲノム変化に起因するという仮説の元で、バイオインフォマティクスを用いた解析から鍵となる転写因子を見出したことを示しました。末廣寛先生(臨床検査・腫瘍学講座)は、大腸がんのマーカーとなるTWIST遺伝子のメチル化状態の安価で簡便な検査方法の開発に成功し、糞便によるエピゲノム診断法を紹介されました。検査の特異性も高く、臨床応用が期待されます。池田栄二先生(病理学第一講座)は、ストレスによる血液脳関門の破綻の分子機構の一端を示されました。血液脳関門を担うClaudin 5をモニターすることで、低酸素ストレスによるその消失を担うプロテアーゼを特定しました。糖尿病性網膜症などの病態との関連が期待されます。白石晃司先生(泌尿器科学講座)は、精子形成と男性ホルモン産生をそれぞれ担う精巣の細胞群が、高温や酸化ストレスに対して異なる運命をたどる機構について、ストレス応答転写因子HSF1を例として紹介されました。男性不妊や更年期障害との関連が期待されます。徳田和央先生(眼科学講座)は、マウス網膜のex vivo器官培養を用いて、グルタミン酸添加による網膜神経前駆細胞誘導実験系を示されました。この誘導過程で解糖系を含む代謝変化を伴うことを見出しました。山形弘隆先生(精神神経科学講座)は、うつ病の病態がエピゲノム異常に起因するという仮説を元に、ヒトの白血球とうつ病モデルマウスのエピゲノム解析を通じて、いくつかのエピゲノム調節に関連する遺伝子が病態の一部を担っていることを示しました。兼清信介先生(消化器・腫瘍外科学講座)は、教室で実績を積んできたがんに対するペプチド療法で、生存率とmRNA発現量が相関していることを紹介されました。さらに、ゲノム解析からエキソソーム変化を同定し、それをネオ抗原とする独自のアプローチを示しました。
 セミナーでは、全体を通じて多くの建設的な議論がなされ、異なる分野の先生方がゲノム・エピゲノム解析やストレス応答等に関連する共通の議論で盛り上がる場面も多くありました。若手の研究者の発表や議論は、将来の研究発展が期待できることを確信させてくれるものでした。セミナーには、谷澤幸生医学系研究科長にもご参加いただき、優れた個々の研究が特徴ある拠点となることを願っている旨のご挨拶をいただきました。

(中井 彰 拠点長)