転写因子WT1のヒト子宮内膜間質細胞の脱落膜化における新たな機能の発見とその分子メカニズムの解明(産科婦人科学講座)


Novel function of a transcription factor WT1 in regulating decidualization in human endometrial stromal cells and its molecular mechanism.
Tamura I, Shirafuta Y, Jozaki K, Kajimura T, Shinagawa M, Maekawa R, Taketani T, Asada H, Sato S, Tamura H, Sugino N. Endocrinology 158, 3696-3707, 2017. doi: 10.1210/en.2017-00478.

Wilms' tumor suppressor gene (WT1) は、胎生期の泌尿生殖系臓器の発生に関わる転写因子である。興味深いことに、子宮内膜では、adult においてもその発現が高度に認められるが、その役割はいまだ解明されていない。一方、子宮内膜における 子宮内膜間質細胞(ESC)の脱落膜化という現象は、ヒトの月経周期における変化であり、着床の成立や妊娠の維持に不可欠である。しかし、そのメカニズムは充分解明されていない。本研究では WT1 の脱落膜化への関与とその分子メカニズムを検討した。同意を得て患者から採取した ESC を in vitroにおける脱落膜化刺激剤であるcAMP で培養し脱落膜化を誘導したところ、WT1 発現は増加した。次に、WT1 の脱落膜化への関与を検討するために、WT1 を SiRNAでノックダウンし、脱落膜化で特異的に発現が誘導される IGFBP1 と PRL 遺伝子発現を調べたところ、これらの遺伝子の発現が抑制された。また、クロマチン免疫沈降法により WT1 はこれらの遺伝子の promoter に結合することが分かった。さらに、脱落膜化によりWT1 発現が増加する機序を探るために、脱落膜化に重要な転写因子である C/EBPβに着目した。C/EBPβをノックダウンしたところ、cAMP による WT 1発現増加が抑制された。また、脱落膜化により C/EBPβは、WT1 の転写開始点より 14k bp下流に存在する未知の enhancer 領域に結合することが分かった。これまでは enhancer 領域が実際に近傍の遺伝子の発現調節をしていることを証明することはできなかった。そこで、CRISPR/Cas9 によるゲノム編集を行い、この発見した WT1 enhancer 領域を欠失した細胞を作成したところ、WT1 発現は誘導されなくなった。
以上より、WT1 は脱落膜化を促進する転写因子であることがわかった。また、その発現は新たに見出された enhancer 領域への C/EBPβの結合によって調節されていることが、ゲノム編集を転写調節研究に用いることによって証明された。