非古典的熱ショック遺伝子を誘導する新規マウスHSF3を発見(医化学分野)
M. Fujimoto, N. Hayashida, T. Katoh, K. Oshima, T. Shinkawa, R. Prakasam, K. Tan, S. Inouye, R. Takii, and A. Nakai.
A novel mouse HSF3 has the potentialto activate non-classical heat shock genes during heat shock. Mol. Biol. Cell 20, 106-116, 2010.
熱ショック応答は一群の熱ショック蛋白質(Hsp)が誘導され、その転写制御に関わっているのが熱 ショック転写因子HSF1である。近年、遺伝子発現の網羅的な解析から、熱ショック処理を行った細胞でHsp以外の多くの遺伝子も誘導されることが分かってきた。これらの幾つかの遺伝子は、哺乳動物細胞に存在するHSF2やHSF4によっても転写制御されている。興味深いことに、哺乳動物細胞ではHSF1が熱ショック応答に必要であり、ニワトリ細胞で熱ショック応答を担うのはHSF3である。しかしながら、これまでにヒトやマウスのHSF3の存在は知られていなかった。今回、我々は種間の比較ゲノム解析によってマウスHSF3 (mHSF3)を同定し、その機能解析を行った。ゲノムの比較解析によって新しく同定したmHSF3は、細胞内に導入されると温熱ストレスによって核へ移行し、熱ショックエレメントに結合することができた。しかし、Hsp70などの古典的熱ショック遺伝子群の誘導を起こさない。その理由の一つとして、mHSF3がクロマチンリモデリング因子BRG1をリクルートできないことが分かった。一方、mHSF3は非古典的熱ショック遺伝子であるPDZK3やPROM2遺伝子を誘導した。このmHSF3の役割は、MEF細胞ではHSF1で補われるが、HSF1欠損細胞ではmHSF3をノックダウンするとPDZK3遺伝子の誘導がなくなり、温熱感受性が増強され、さらに蛋白質凝集を促進した。これらの結果は、非古典的熱ショック遺伝子の誘導の新しい分子機構、ならびに蛋白質ホメオスターシスにおけるその生物学的意義を明らかにするものである。
本研究の概要は、米国細胞生物学会ニュースレターにハイライトとして紹介されている。