嗅神経形成の維持に熱ショック転写因子HSF1が必要である

E. Takaki, M. Fujimoto, K. Sugahara, T. Nakahari, S. Yonemura, Y. Tanaka, N. Hayashida, S. Inouye, T. Takemoto, H. Yamashita and A. Nakai. Maintenance of olfactory neurogenesis requires HSF1, a major heat shock transcription factor in mice. J. Biol. Chem. 281: 4931-4937, 2006

哺乳類には3種類の熱ショック転写因子(HSF)が存在し、標的遺伝子のプロモーター領域にあるHeat shock element (HSE)に結合し転写調節を行うことが知られている。最近、私たちはHSF4がレンズ形成の維持に必須であることを明らかにし、その機構がストレスに関連したものであることを示唆した。

 今回、HSF1とHSF4の欠損マウスの外胚葉由来の感覚器について解析を行ったところ、HSF1欠損マウスの鼻において、嗅神経上皮の萎縮を認めた。嗅神経上皮の解析を行ったところ、HSF1欠損マウスでは蛋白質及びRNAレベルでHspの発現が減少していた。また、嗅神経形成にかかわる遺伝子発現を調べたところLIFの発現が亢進していることを見いだした。発生の過程で4週目から嗅上皮の異常が起こるが、それと一致してHSF1の活性化、熱ショック蛋白質の誘導、LIFの発現低下が起こることがわかった。LIFの高発現や発現低下は嗅上皮の萎縮を導くことが知られているので、それが一因と考えられた。

マウスのLIF遺伝子のプロモーター領域には、多数のHSE配列が存在しており、この領域にHSF1が結合していることがChIP解析により示された。HSF欠損マウスやHSFを高発現させた細胞を用いた解析から、LIFの発現が、レンズでのFGF発現と同様にHSF1とHSF4により拮抗的に転写調節されていることがわかった。レンズと嗅上皮はともにPax6に依存した外胚葉由来のプラコードに由来し、たえず、外界からのストレスを受けている。本研究は、これらの感覚器の発生過程にストレス応答が密接に関わることを示唆している。