低酸素濃度環境下における生体の恒常性維持機構

 

生物は進化の過程において、酸素をエネルギー源として利用する代謝系を獲得し、我々ヒトはエネルギー源としての酸素に依存した生命活動を営んでいる。そして、生体を取り巻く環境の酸素濃度変化が変化した際には、その変化を感知し反応する機構を有している。それらの反応は、酸素が不足した低酸素環境においても生体の恒常性を維持し生存するための代償性反応機構ととらえることができるが、一方では、種々のヒト疾患において病態を悪化させる要因として働いていることも知られている。特に、酸素の運搬路である血管系は酸素濃度変化に鋭敏に反応し、血管新生などの改築を通じ、多くの疾患の病態に関与している。

成体の脳血管系は、脳組織特異的な分化を示す血管内皮細胞を有しており、血液と脳組織の間にバリアーを形成し神経細胞が正常に機能するための微小環境を維持している。こうしたバリアー機能を有する血管系は、個体発生過程において、血管周囲組織の酸素濃度変化に反応した増殖・分化過程を経て形成される(図1)。一度形成させた成熟脳血管系にも、周囲酸素濃度の変化に敏感に反応した改築(血管バリアー機能の破綻、血管新生など)が惹起され、糖尿病網膜症や虚血性脳疾患など多くの疾患の病態悪化の要因となる(図2)。本研究計画では、低酸素刺激に対する成熟脳血管系の反応機構について詳細な解析を行い、種々の難治性疾患の病態解明、さらには新たな治療法開発を目指す。

 

図1

図2