脂質恒常性の制御機構

  脂質は生体に不可欠な栄養素であり、細胞を構成する膜の基本骨格である。一方で脂質の過剰摂取は、癌、糖尿病、動脈硬化、炎症、精神疾患などの発症・増悪に関与していることも事実である。脂質の主要構成要素である脂肪酸は、 二重結合を持たない飽和脂肪酸と、二重結合を持つ不飽和脂肪酸とに大きく分けられる。二重結合が複数存在する多価不飽和脂肪酸はさらに、二重結合の位置によってn-3系、n-6系、n-9系といった脂肪酸に分類される(Fig. 1 左)。こうした脂肪酸摂取比のかたよりが細胞内外の脂質恒常性に変化を及ぼして、記憶学習や免疫担当細胞のサイトカイン産生に影響を与えるということが栄養学的に知られている。

Fig.1  Schematic representation of the cellular FABP function

 細胞内において、炭素数12個以上の長鎖脂肪酸は不溶性であり、長鎖脂肪酸が細胞内を移動するためにはこれに結合して可溶化し、生理活性を発揮させる分子が必要となる。その有力な制御分子として想定されているのが、脂肪酸結合蛋白質Fatty Acid Binding Protein (FABP)である。FABP分子ファミリーには12種類に及ぶ分子種が同定されており、機能としては、脂肪酸の取り込みと代謝、リン脂質膜の構成制御、シグナル伝達の制御、転写制御などが考えられている(Fig. 1右)。

FABP分子の生体器官・細胞への局在は、多様である (Fig. 2 & Table 1)。神経系では脂質の取り込みや細胞の分裂を介して神経可塑性の調節を行い、免疫系では炎症の制御を行っていると考えられている。

Fig.2  FABP7 localization in GFAP(+) astrocyte (left) and F4/80(+) liver Kupffer cell (right)

 個々のFABP分子が持つ生体機能については、未だ不明であるが、広範に組織・細胞に存在することから(Table 1)、食物を含めた広い意味での脂肪酸環境と個体および細胞応答に関わり、脂質恒常性維持のmodulatorとして機能していると考えられている。FABP分子を含めた細胞の脂肪酸恒常性維持機構の解明は、代謝疾患のみならず、免疫異常や精神疾患の病態を理解する上でも重要である。

 Table 1 The localization of FABP molecules