蛋白質ホスファターゼ1触媒サブユニットの心筋細胞筋小胞体カルシウム循環における役割の検討 (器官病態内科学分野—分子薬理学分野)
H. Aoyama, Y. Ikeda, Y. Miyazaki, K. Yoshimura, S. Nishino, T. Yamamoto, M. Yano, M. Inui, H. Aoki, and M. Matsuzaki.
Isoform-specific roles of protein phosphatase 1 catalytic subunits in sarcoplasmic reticulum-mediated Ca2+ cycling. Cardiovasc. Res., 89. 79-88. 2011
蛋白質ホスファターゼ1(PP1)は心筋細胞において主要なセリン・スレオニンホスファターゼの一つであり、その活性は心不全の進行に重要な役割を果たしていると考えられている。PP1の触媒サブユニットは3つの遺伝子、すなわちα、β、γの3つのアイソフォームから構成される。心筋細胞における各アイソフォームの役割の違いについては、詳しく解明されていないことが多い。我々は、各アイソフォームが筋小胞体機能にどのように貢献しているか、ラット成獣心筋細胞培養系を用いて検討した。
各PP1アイソフォームのshort hairpin RNAを発現するアデノウイルスベクターを作成し、単離したラット心筋細胞に感染させ、遺伝子発現を抑制した。細胞短縮率、細胞内カルシウム動態の測定により、各PP1アイソフォームの生理機能を解析した。また、タグ付きPP1を発現するアデノウイルスを使って、各PP1アイソフォームの細胞内局在を検討した。各PP1アイソフォームをノックダウンした心筋細胞の解析の結果、PP1bが細胞内カルシウム動態、細胞短縮率にもっとも重要な役割を果たすアイソフォームであることがわかった。また、PP1bは、筋小胞体ATPase(SERCA)、ホスホランバン(PLN)ともっとも強く結合するアイソフォームであり、細胞内のlongitudinal SRと呼ばれる部分で、SERCA/PLNと共在している割合が多いことが判明した。
PP1bは3つのPP1アイソフォームの中で心筋細胞カルシウムハンドリングにもっとも深く寄与していることが示された。