代償性肺増殖における転写因子TTF-1の役割を解明(病理形態学分野)
Y. Takahashi, Y. Izumi, M. Kohno, T. Kimura, M. Kawamura, Y. Okada, H. Nomori, and E. Ikeda.
Thyroid transcription factor-1 influences the early phase of compensatory lung growth in adult mice. Am J Respir Crit Care Med., 181, 1397-406, 2010.
ヒト成体における肺再生医療の確立を視野に入れ、左肺全摘出後の成体マウス右肺に起こる代償性肺再生機構の解析を行った。成体マウス(9週齢)の左肺を全摘出後、経時的に残存右肺の乾燥重量・肺胞数・肺胞表面積・肺胞道面積を計測するとともに、組織切片にて増殖細胞の特定を行った。また、個体発生過程における肺組織構築の制御因子の一つである thyroid transcription factor 1 (TTF-1) の発現についても検索した。さらに、TTF-1 発現阻害が残存右肺の再生に及ぼす影響を解析した。残存右肺では、術直後には肺胞道が拡張し、その後 septation による肺胞新生が起こり、術後7日には摘出された左肺を代償する肺再生が誘導された。TTF-1 発現は術後12時間でピークに達し、その後は漸減したが、特異的 siRNA の気道内投与により TTF-1 発現を阻害すると、残存右肺の再生が遅延した。以上より、成体マウスでは、左肺全摘出後の残存右肺にTTF-1 の一過性発現亢進を介した肺再生が起こることが示された。ヒト成体肺においても、一過性に TTF-1 発現を誘導することにより肺再生を惹起し得る可能性が示唆された。