血液脳関門の機能をよく保持した新たなヒト条件的不死化脳微小血管内皮細胞株の樹立(神経内科学分野)
Y. Sano, F. Shimizu, M. Abe, T. Maeda, Y. Kashiwamura, S. Ohtsuki, T. Terasaki, M. Obinata, K. Kajiwara, m. Fujii, M. Suzuki, and T. Kanda.
Establishment of a new conditionally immortalized human brain microvascular endothelial cell line retaining an in vivo blood-brain barrier function. J Cell Physiol., 225, 519-528, 2010.
多発性硬化症やアルツハイマー病などの難治性神経疾患では血液脳関門(BBB)がその発症に大きく関与している.脳微小血管内皮細胞から構成されるin vitro BBB モデル,とりわけヒト由来のモデルは,これらの疾患の病態解明や新たな治療法開発に有用である.BBB由来の内皮細胞を効率よく増殖させるためには何らかの不死化遺伝子を導入する必要があるが,SV40ラージT抗原などの不死化遺伝子が導入された内皮細胞は癌化し,生理的・生化学的な性質が失われることが多い.今回われわれは,細胞を増殖させる遺伝子として温度感受性SV40ラージT抗原(tsA58)を使用し,あらたなヒトin vitro BBB モデルを作成した.
定法にてヒト脳微小血管を単離し,酵素処理後一次培養を行った.初めの播種から48時間後にtsA58遺伝子をレトロウイルスを用いて初代培養細胞群に導入した.クローニングカップを用いた数回の継代操作によって純粋な内皮細胞から構成されるcloneの単離に成功し,このcloneをTY08細胞と命名した.得られたTY08細胞が血液脳関門を構成する内皮細胞特有の性質を保持しているかを検討した.
TY08細胞は,33℃下にて増殖し,37℃下では増殖が停止した.本細胞株はOccludin,claudin-5, ZO-1などの密着結合分子やGLUT-1,p-gpなどのBBBを構成する内皮細胞に発現する主要な分子を発現していた.電気抵抗および透過性の検証ではバリア機能を有することが示された. また,33℃に比し37℃の培養条件下でTY08細胞のバリア機能は増強した.TY08細胞は温度感受性を示すと同時にBBB構成内皮としての性質をよく保持していた.