HSF1ノックダウンはヒトメラノーマ細胞の増殖を抑制し、温熱感受性を増強する(皮膚科学分野—医化学分野)

Y. Nakamura, M. Fujimoto, N. Hayashida, R. Takii, A. Nakai, and M. Muto.

Silencing HSF1 by short hairpin RNA decrease cell proliferation and encgances sensitivity to hyperthermia in human melanoma cell lines. J. Dermatol. Sci., 60. 187-192. 2010.

  熱ショック応答は、進化の過程で保存された普遍的な生体防御機構であり、熱ショック因子(Heat shock factor 1:HSF1)によって制御される。HSF1は、構成的ならびに誘導性の熱ショック蛋白質(Heat shock protein:Hsp)の発現を制御することで、熱ストレスをはじめとする様々なストレスに対する耐性獲得に働いている。最近の研究から、HSF1は細胞内蛋白質ネットワークを調整することにより腫瘍形成を制御しており、癌の発生や維持において重要な役割を演じていることが報告されている。

今回我々は、ヒトメラノーマ細胞株MeWo、HMV-I、HMV-IIにショートヘアピンRNA発現アデノウイルスを感染させ、HSF1をノックダウンさせた。HSF1をノックダウンしたMeWo細胞は増殖能が低下し、細胞周期の解析からG1ブロックが認められた。さらに、HMV-I、HMV-II細胞においても、HSF1ノックダウンにより細胞増殖能の低下を認めた。しかし、正常細胞であるヒトケラチノサイト細胞株HaCatは、HSF1をノックダウンしても細胞増殖能の低下は認められず、癌であるメラノーマ細胞に特異的にHSF1が細胞増殖に重要な役割を演じていることが示された。また、HSF1をノックダウンしたメラノーマ細胞は、温熱処置に対する抵抗性が減弱することが分かった。

これらの結果から、ヒトメラノーマ細胞において、HSF1は増殖能の維持と熱ストレス下での生存に必要な因子であり、HSF1を制御することはヒトメラノーマ治療の有望な標的の1つになりうることが示唆される。