末梢神経のペリサイトは様々な液性因子を分泌し血液神経関門を制御している

Peripheral nerve pericytes modify the blood-nerve barrier function and tight junctional molecules through the secretion of various soluble factors

F. Shimizu, Y. Sano, M. Abe, T. Maeda, S. Ohtsuki, T. Terasaki, and T. Kanda

J. Cell Physiol., 226, 255-266, 2011.

 ギランバレー症候群や慢性炎症性根神経炎などの免疫性末梢神経疾患では血液神経関門の破綻が存在し,これらの炎症性末梢神経疾患の発症・増悪の鍵となるエピソードとなりうることが知られている.血液神経関門の破綻を修復することで炎症細胞や各種炎症性サイトカインなどの末梢神経実質への侵入を阻止できれば,これらの難治性末梢神経疾患の新規治療法開発へつながることが期待されるが,そのためには血液神経関門の性質を十分に解明する必要がある.血液脳関門は,脳微小血管内皮,アストロサイト,ペリサイトの3者から構成されるが,血液神経関門は末梢神経神経内膜内微小血管内皮細胞,ペリサイトの2者のみから構成される.血液脳関門においてアストロサイトは脳微小血管内皮を制御しバリアー機能を増加させることが知られているが,血液神経関門にはアストロサイトに相当する細胞はない.これまでの研究で,血液脳関門においてアストロサイトはAng-1, TGF-β VEGF, bFGFを産生し,密着結合蛋白を増加あるいは低下させバリアー機能を制御している可能性が推測されているが,ペリサイトがバリアー機能を制御しているかについての十分な検討はなされていなかった.血液神経関門の詳細なメカニズムを解明するためにはすぐれたin vitro BNB modelを構築することが重要であるが,技術面の困難さからこれまで報告はなされてこなかった.そこで我々はヒト由来の坐骨神経より末梢神経神経内膜内微小血管内皮細胞,ペリサイトの不死化細胞株を樹立することを本研究の目的とした.さらにそれらの細胞を用い血液神経関門のバリアー機能がどのように制御されるかを明らかとした.

  剖検例よりヒト脳微小血管ならびにヒト末梢神経神経内膜内微小血管を単離し,酵素処理後一次培養を行った.初めの播種から48時間後にtsA58遺伝子ならびにテロメアーゼ遺伝子をレトロウイルスを用いて初代培養細胞群に導入した.クローニングカップを用いた数回の継代操作によって純粋な脳由来および末梢神経由来ペリサイト,血管内皮細胞の細胞株単離に成功し,世界初となる同一ヒト由来のBNB in vitro modelを樹立した.ペリサイトはruffed-border状の形態,αsmooth muscle actin (αSMA),NG2の発現,PDGF-βReceptor (PDGFβR)の発現をもって同定した.さらにペリサイトから放出される液性因子がBNB由来の血管内皮細胞のバリアー機能に変化を与えるかを検討するため,ペリサイト培養の上清を回収し末梢神経微小血管内皮に作用させ,電気抵抗値,14C-inulin透過性の変化を検討した.さらにペリサイト培養上清が,末梢神経微小血管内皮細胞のtight junction関連分子の発現に影響を与えるかどうかをreal time PCR,western blotを用いて検討した.次に末梢神経微小血管内皮細胞にAng-1, VEGF, bFGFを作用させtight junction関連分子の発現に影響を与えるかどうかをreal time PCR,western blotを用いて検討した.

 単離したペリサイトはAng-1, VEGF, TGF-β bFGF, BDNF, GDNF, NGFなどの生理活性物質を発現していた.ペリサイトが産生放出する液性因子により末梢神経微小血管内皮細胞の電気抵抗値が上昇,14C-inulin透過性が低下し,バリアー機能が増加した. claudin-5の発現増加も確認できた.末梢神経微小血管内皮細胞にbFGFを作用させるとclaudin-5の発現が増加し,pericyte培養上清にbFGFの中和抗体を作用させるとclaudin-5の発現は減少した.VEGF,TGF-β,Ang-1を作用させると末梢神経微小血管内皮細胞のclaudin-5の発現が減少した.

 今回我々はヒト坐骨神経神経内膜内微小血管の構成細胞である末梢神経微小血管内皮細胞およびペリサイトの単離に成功した.近年,BBBばかりでなくBNBでもtight junctionの維持にclaudin-5が重要であることが明らかになりつつあるが,今回の検討でペリサイトにより放出されている液性因子が末梢神経微小血管内皮細胞のclaudin-5の発現を増加させ,BNBのバリアー機能を高めている可能性が考えられた.また今回の解析で,BBBでアストロサイトが産生するサイトカインであるAng-1, VEGF, TGF-β bFGFをBNBを構成しているペリサイトも発現していることが明らかとなった.更に,bFGFは末梢神経微小血管内皮細胞のclaudin-5の発現を増加させ,VEGF, Ang-1が末梢神経微小血管内皮細胞のclaudin-5の発現を減少させていることを示した.BNBではペリサイトが液性因子を介し末梢神経微小血管内皮細胞のバリアー機能を制御していることが示された.

BNBでは ペリサイトが液性因子を介し末梢神経微小血管内皮細胞のバリアー機能を高めており,BBBでアストロサイトが果すべき役割をBNBではペリサイトが担っている可能性が考えられた.ペリサイトを制御することにより,神経免疫疾患において末梢神経の内部環境を調整するという新規治療戦略を立てることが可能である.