第51回日本生化学会中国四国支部例会シンポジウム

環境ストレスから見えてくる「生体恒常性の維持と破綻のメカニズム」

 熱ショック応答システムによるタンパク質ホメオスタシスの維持機構

中井 彰 山口大学大学院医学系研究科

活性分子種による核酸の化学修飾と生体応答

中別府雄作 九州大学生体防御医学研究所

オートファジーによる環境ストレス応答システム制御

小松雅明 東京都臨床医学総合研究所

 平成22年5月14日、上記シンポジウムが山口大学会館で開催された。中井先生は、従来知られている分子シャペロンを介する以外に、非シャペロン経路によってタンパク質ホメオスタシスの維持がなされていることを示した。非古典的な熱ショック遺伝子の発現制御が、進化の過程で機能を変えてきた熱ショック転写遺伝子群(HSF1-4)によって制御されていることから、それらの遺伝子発現の生物学的重要性を示唆した。中別府先生は、ヌムレオチドホメオタシスという概念を紹介された。DNAやヌクレオチドは絶えず化学修飾をうけては修復されている。その修復機構が損なわれて異常なヌクレオチドが蓄積すると個体レベルで致死的となることを示した。小松先生は、独自に発見されたオートファジーの核となる分子p62が、酸化ストレスによる遺伝子発現を制御する因子と結合することで、その遺伝子発現を調節することを示した。つまり、タンパク質分解系と酸化ストレス応答系が密接に関連していることが明らかとなった。

当日は、中国四国の生化学会員ならびに山口大学の学部と大学院学生が多数参加して活発な討論が行われた。それぞれの講演は、十分な時間が設けられ、その研究の歴史を背景とした研究成果が理解できた。細胞の主要な構成要素であるタンパク質や核酸の恒常性の機構を解明することで、その異常が疾患を導くことが明らかになってきている。本シンポジウムは、新しい恒常性維持機構の解明が、疾患の病態の理解と治療に結びつくことを印象づける講演であった。

 (医学系研究科医化学分野 修士1年 譚克)