第13回生体恒常性とストレス応答セミナーを開催しました
第13回生体恒常性とストレス応答セミナーが2012年6月14日(金)に山口大学医学部総合研究棟8階セミナー室において開催されました。今回は、深水昭吉先生(筑波大学生命領域学際研究センター・教授)をお招きし、「代謝と寿命を結ぶメチル化制御」というテーマでご講演いただきました。
エピジェネティックな制御機構の中でもアルギニンのメチル化の話題を中心として講演が行われました。タンパク質中のリジンまたはアルギニンはメチル化転移酵素によりモノ・ジ・トリのメチル基が付加されます。メチル化転移に関わるASH2を欠損した線虫は、寿命の延長が見られるのですが、驚くべきことにこの表現型は野生型になっても5世代維持され、ゲノムの遺伝情報とは異なったエピジェネティックな制御機構が次の世代に伝わるという例を紹介されました。
アルギニンのメチル化転移酵素PRMTは8つのfamily分子が存在しますが、メチル基の付加の仕方によって非対称型または対称型の大きく2つのタイプに分類されます。PRMT群の欠損マウスは胎生致死となるために、線虫の実験系を用いてPRMTの機能解析が行われました。対称型PRMT群は、寿命の延長に寄与しませんでしたが、非対称型であるPRMT1の欠損または過剰発現は、線虫における寿命の短縮または延長を引き起こしました。通常では、インスリン受容体の活性化により活性化したAKTによりリン酸化を受けた転写因子FOXO1が、核外に出ることで酸化ストレス関連遺伝子の発現の低下が生じます。一方、PRMT1はFOXO1のメチル基の修飾を行うことで、リン酸化を抑制し、FOXO1の転写活性化能を維持することで寿命の延長を引き起こすというメカニズムをわかりやすく紹介されました。
質疑応答では、用意していた時間枠をこえてしまうほどに満席に近い研究者の方々から多数の質問が上がり、活発な討論が行われ、1つ1つの質問にも丁寧に答えていただきました。今回の講演は、メチル化が制御する寿命の延長のメカニズムとメチル化が様々な代謝と深く結びついているという基礎的な知識と最新の情報を深く知る良い機会となりました。
(医化学分野 瀧井良祐)