第5回 研究推進体「ストレス」フォーラムを開催しました

 2012年5月1日(火)、山口大学医学部総合研究棟8階多目的室にて第5回研究推進体「ストレス」フォーラムが開催されました。今回は、「ストレスを基盤とする病態の克服を目指して」というテーマを掲げ、4名の先生にご講演いただきました。心臓、神経、角膜での恒常性維持機構の破綻に基づいた疾患における病態解明や、その恒常性を維持するための治療に向けた研究内容を、最新の知見を踏まえてご紹介いただき、有意義な情報交換の場となりました。

 最初の2題は、心不全治療に焦点をおいた研究で、いずれも心筋小胞体Ca2+輸送を制御するホスホランバンを標的とした内容でしたが、その戦略は大きく異なるものでした。田中貴絵先生 (分子薬理学)には、ホスホランバンに結合する核酸アプタマーを開発し、そのアプタマーによるホスホランバンの機能制御を通して心筋小胞体Ca2+輸送を促進させるといった研究内容をご紹介いただきました。一方、池田安宏先生(器官病態内科学)は、ホスホランバンの脱リン酸化酵素(脱リン酸化によりCa2+輸送は抑制)の発現抑制により、低下したCa2+輸送能を改善させるというアプローチで、加えて心筋特異的かつ心不全によりはじめて発現抑制が誘導される、という洗練された手法を開発なされており、大変興味深い情報を提供していただきました。藤永竜太郎先生 (機能神経解剖学)には、未だその機能が不明である、神経細胞質封入体“stigmoid body”について話していただきました。ハンチントン病関連蛋白質(HAP1)から構成されるstigmoid bodyが如何にして構築されるのか、また種々の細胞ストレスに対する応答性など、詳細な検討を視覚的にご紹介いただきました。黎明期にあるstigmoid body研究の今後の発展、すなわち生理的意義や病態への関与を解明していく上で重要な足がかりとなる成果をご報告いただきました。最後に森重直行先生 (眼科学)は、第二次高調波発生という非線形光学現象を利用して、角膜実質のコラーゲン組織構造を未変性条件下で可視化することに成功され、その解析手法により初めて明らかとなったコラーゲン繊維の構造特性を詳細にお話しくださいました。ボウマン層に接する角膜実質浅部のコラーゲン繊維構造は深部でのそれとは異なること、その生理的意義、また角膜疾患との関連性について、新しい発見をご紹介いただきました。

 本フォーラムでは、基盤系・臨床系の研究者や学生が会場に入りきれないほど集まり、分子基盤から臨床応用まで幅広い視点から、今後の研究進展を見据えたコメント、臨床的側面からの提言などが活発に行われ、総じて大変有意義な討論の場が持たれました。

 (分子薬理学 本田 健)