第1回シンポジウム「細胞の恒常性とストレス応答セミナー」を開催しました

  平成22年4月9日、本研究推進体主催の上記セミナーを医学部霜仁会館にて開催しました。今回は、「細胞の恒常性と素過程に迫る」と題して、本研究推進体の基盤となる素過程(elementary process)の解明、あるいは疾患の病態から素過程に迫る研究を行っている先生方にご講演をお願いしました。特に、タンパク質、脂質、酸素、カルシウムの恒常性とストレス応答を取り上げました。

  まず、大和田先生が脂質恒常性と精神疾患のお話をされました。独自に作成された脂肪酸結合蛋白質FABP-B欠損マウスでヒトの統合失調症の特徴である恐怖、不安の亢進を見いだし、その分子機構の解析を紹介されました。FABP-Bはアストロサイトに発現していますが、その細胞の脂肪の組成をかえることで、神経細胞経正しく情報が伝わらないのではないかという仮説を紹介されました。FABPは、脂肪酸の恒常性に中心的な分子であり、今後の展開が期待されます。

 池田先生は、低酸素応答エレメントを同定した実績を基盤として、低酸素応答における細胞の恒常性の研究を展開しています。脳組織では、血液脳関門が組織酸素濃度の調節重要で、そのバリアー機能障害で疾患が引き起こされます。特に、クローディン5の量と膜への局在が、低酸素に対する適応として重要であることを示されました。その分子機構の解明をめざしており、その成果が期待されます。

 小林先生は、in vitroで血管内皮細胞収縮を観察する独自の技術を用いて、血管の異常収縮の機構を解明しています。Rho kinaseの活性化が、MLCKの活性化を導くことでCa非依存性収縮がします。その上流では、スフィンゴ脂質の一種SPCが、Fyn tyrosine kinaseを活性化することでRhoを活性化することを見いだしました。SPCはコレステロールの存在下でのみ平滑筋細胞を活性化しており、その分子機構の解明を行っています。血管異常収縮が脂質恒常性と密接に関連していることが分かりました。

 乾先生は、Ca恒常性と心不全についてお話をされました。先生が発見されたCa遊離チャネルであるフォスフォランバンPLBとそれを調節するSERCAとの結合を阻害する薬剤のスクリーニングにより、有望なaptamer DNAを同定しました。現在、心不全の治療薬の可能性を検討しており、その効果が期待されます。

 中井はタンパク質恒常性に重要な熱ショック応答の生物学的意義を再考するデータを示しました。従来、熱ショック応答は、古典的熱ショック遺伝子産物である熱ショックタンパク質に誘導を特徴とする応答で、そのシャペロンネットワークによってタンパク質恒常性を保っていると考えられています。今回、HSF1を介する非シャペロン経路の重要性を明らかにすることで、熱ショック応答がより多くの遺伝子発現を介したタンパク質ホメオスタシスを保つための仕組みであることを示しました。さらに、新たに明らかにした経路が、カルシウムにより制御されることから、カルシウム制御とタンパク質ホメオスタシスが関連したものであることを示しました。

本シンポジウムでは、個々の構成要素の恒常性の分子機構の研究を行っている研究者およそ50名が集まり、それぞれのシステムを基盤として相似な過程や異なる過程、あるいは接点のある過程を活発に議論しました。さらに、共通な実験技術の議論も活発になされ、研究推進体の活動により研究がますます発展することが期待されました。最後に佐々木研究科長から、本研究推進体は大学を挙げて支援しており、研究成果を出すようがんばっていただきたいとの激励をいただきました。

(主催者)