ミトコンドリア不良タンパク質応答におけるHSF1経路の分子機構が解明されました(解説)
この度(2023年6月22日)ドイツのMünch博士らの研究グループは、細胞質のタンパク質ミスフォールディングの監視機構(熱ショック応答)がミトコンドリアでの監視機構(ミトコンドリア不良タンパク質応答、UPRmt)を活性化する仕組みを明らかにしました(1)。哺乳動物細胞のUPRmtは転写因子ATF5やCHOPによって制御されることが明らかにされ、私たちの研究によって熱ショック応答を制御するHSF1もまた重要な制御因子であることが分かっていました(2)。しかし、それらの経路の相対的な効果や活性化の分子機構は不明でした(3)。Münch博士らはヒトHeLa細胞を用いて、UPRmtシグナル伝達はミトコンドリアの活性酸素種および細胞質でのミトコンドリアタンパク質前駆体の蓄積という細胞質内での2種類のシグナル経路によって引き起こされることを示しました。さらに、この応答はHSF1の活性化によるHSP60、HSP10、mtHSP70、LON1の誘導であり、ATF5やCHOPは全く寄与しないことも示しました。本研究により、UPRmtの分子機構が明らかになるとともに、私たちが提唱した熱ショック応答とUPRmtの連携が検証されました。
1) Sutandy FXR, Gößner I, Tascher G, Münch C. A cytosolic surveillance mechanism activates the mitochondrial UPR. Nature 7966, 849-854, 2023.
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06142-0
2) Katiyar A, Fujimoto M, Tan K, Kurashima A, Srivastava P, Okada M, Takii R, Nakai A. HSF1 is required for induction of mitochondrial chaperones during the mitochondrial unfolded protein response. FEBS Open Bio 10, 1135-1148, 2020.
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2211-5463.12863.
3)中井 彰、瀧井良祐、藤本充章 プロテオスタシスを維持するためのミトコンドリア不良タンパク質応答:ミトコンドリアダイナミクス~機能研究から疾患・老化まで~ 株式会社エヌ・ティー・エス、p65-p74、2021.
http://www.nts-book.co.jp/item/detail/summary/bio/20211100_252.html