研究に興味のあるみなさん

 医学を志して医学部に入学したみなさんは、医学の学問に非常に興味を持っていることでしょう。医学の分野はとても広くて、臓器別に見ても神経、循環器、内分泌、造血器などさまざまです。しかし、それらの生理機能や病態を理解するためには共通の言葉や考え方を用いています。それらは、みなさんが分子生物学や生化学で学ぶ知識や考え方です。私たちの研究室では、分子生物学的な知識と技術を基盤とした研究を行っています。その内容は、細胞活動の基本システムである「熱ショック蛋白質(分子シャペロン)とそれを制御する転写因子の生理的意義と分子機構の解明」です。このような視点で分子レベル、細胞レベル、個体レベルの研究を進めていますと生命活動のあらゆる分野とつながってきます。つまり、最も基本となるシステムの研究や技術の習得は、あらゆる分野で役に立ちます。研究に興味のある学生さんたちは、まずこのような基本的な研究に手を着けてみるのが良いと考えています。その経験は、間違いなく将来医師として病気を理解する上でも大きく役立つでしょう。興味のある学生さんはいつでも2生化にきて話を聞いてみて下さい。

自己開発コースと修学論文チュートリアルを考慮しているみなさん

 自己開発は、自分の力である問題に対してチャレンジすることが大切です。成功すれば良いし、うまくいかなくても問題に対する自分のアプローチの方法、手技などについて自己評価する経験が重要だと考えています。研究室は生体防御機構として最も基本的な応答である熱ショック応答の分子機構と生理機能の解明に向けた研究を行っています。本研究室を選択した学生さんは、この研究に関連した独立したテーマを選択していただきます。このテーマに対して教官のサポートを受けながらアプローチしてゆき、数ヶ月の期間で、決定的な結論を一つ導くことが目標となるでしょう。

 このような経験によって、例えば、教科書にでてくる「遺伝子の発現」や「シグナルの伝達」とはどういうことかを実感できると考えています。また、大学院生や教官と生活をともにすることで自分の科学者としての適性に気づくかもしれません。このような経験は、将来患者さんを見る上でもとても大切なものになることでしょう。

 これまでに2生化に参加した学生さん

医学部を卒業するみなさんへ

 医学部卒業のみなさんの多くは、まず臨床を経験することになるでしょう。その後、いろんな形で臨床で得た知識と経験を基盤として研究を始める日が来ます。中には、臨床的な問題を追求していくうちに、より深く探求する必要が出てきます。私も含めて多くの医学部の基礎講座の先生方は、そのような経緯で、生命科学研究を行っています。みなさんが、これから臨床において何か解決すべき問題に突き当たったときは躊躇せず、できるだけ多くの分野の先生方のアドバイスを求めてください。そして、その問題解決にむけて努力して下さい。そのような学問に対する素直な行動の積み重ねが、みなさんの将来を切り開いてゆくと信じています。

講座の特徴

 分子生物学のめざましい発展に伴い、現在の医学では、さまざまな形態や機能をもつ臓器を、共通な分子の働きによって営まれる細胞の集団としてとらえられるようになってきた。正常な細胞の機能を分子のレベルで理解することなしに、病気の理解は不可能である。私たちの教室では、分子生物学領域での最先端の研究を基盤として、学部?大学院での分子生物学の教育を行っている。

 私たち生物は、体内の内部環境の変化や異常、あるいは外部環境の変化にさらされながらも安定的環境を維持している。この仕組みは、ホメオスタシス(homeostasis; 恒常性)と呼ばれ、それを凌駕する環境変化が生じて、安定的環境を維持できなくなった状態が病気である。からだを構成する細胞は10万種類ほどの様々な機能を持った蛋白質の社会であり、蛋白質ホメオスタシスの破綻がすべての病気の病態と関連している。この蛋白質ホメオスタシスに重要なものがシャペロンネットワークとタンパク質分解システムであり、熱ショック応答と呼ばれる転写制御により調節されることでホメオスタシスが維持されている。このホメオスタシスは老化と関連する神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)、白内障、難聴、寿命、あるいはがん等の多くの疾患と関連している。本教室では、この熱ショック応答の生理機能と分子機構の研究を進めることで、蛋白質ホメオスタシスと関連した疾患群に対する臨床応用への糸口を模索している。具体的には、熱ショック転写因子群と相互作用する分子のスクリーニングならびにターゲット遺伝子群のスクリーニングと解析、そしてそれらの遺伝子改変マウスの解析等を行っている。さらに、蛋白質変性が病態となる神経変性疾患の疾患モデルを用いて、熱ショック応答と関連する新規な因子群の病態への関与を解明し、治療の可能性を探っている。

 研究目標は、生命科学の最先端の手技を駆使して、世界レベルで「おもしろい研究」や「ヒトを驚かせられるような発見」を行うこと。世界に通用する生命科学・医学研究者を山口大学から輩出すること。教育目標は、医学の基盤である分子生物学?生化学のロジック(論理)を大切にする姿勢を伝えること。

以上