タンパク質ホメオスタシス容量の調節の基本的な仕組みを解明(医化学分野)
RPA Assists HSF1 Access to Nucleosomal DNA by Recruiting Histone Chaperone FACT
M. Fujimoto, E. Takaki, R. Takii, K. Tan, R. Prakasam, N. Hayashida, S. Iemura, T. Natsume, and A. Nakai..
Mol. Cell, 48, 182-194, 2012.
山口大学は、細胞内タンパク質ホメオスタシスを調節する仕組みを分子レベルで解明し、それがマウスでの腫瘍形成に必要であることを示しました。これは、山口大学大学院医学系研究科医化学分野の中井彰教授、藤本充章講らを中心とした研究グループが、産業技術総合研究所の夏目徹主任研究員らとの連携研究で得た成果です。
タンパク質は、アミノ酸が一列に並んだひも状のもので、それが正しく折れたたまれる(フォールディングされる)ことではじめて働くことができます。不可逆的にミスフォールディングされたタンパク質は分解によって処理されます。細胞には、外界からのストレスや遺伝的要因などによって生じたタンパク質の異常を再フォールディングや分解により修復する仕組みが備わっており、その中でも重要なのが熱ショック応答と呼ばれる適応機構です。これは、フォールディングと分解を助けるストレスタンパク質群の遺伝情報の読み取り(転写)の量を調節することで、タンパク質ホメオスタシス(恒常性)を保つ仕組みです。がん細胞は、この適応機構を強く発揮させて、それを利用することで、ストレス条件下でも増殖できることが知られています。
この仕組みの働きを調節するのが熱ショック因子HSF1(Heat Shock Factor 1)とよばれる転写調節因子です。HSF1は、ストレスタンパク質をコードする遺伝子に結合することでその転写量を亢進します。しかし、遺伝子を含むDNAはヒストンタンパク質とともにヌクレオソームとよばれる構造を形成しており、通常は転写調節因子が結合できない状態で存在します。したがって、どのようにHSF1がヌクレオソーム構造をほどき、ストレスタンパク質の遺伝子に結合できるか不明でした。今回、研究グループは、HSF1がDNA代謝と関連するRPA(Replication Protein A)と複合体を形成し、それがDNAからヒストンタンパク質を除く因子を引き寄せることを発見しました。その結果、ストレスタンパク質の遺伝子に結合できたHSF1が、その転写量を調節してタンパク質ホメオスタシスを保ちます。さらに、このHSF1-RPA複合体ができない条件下では、マウスでの腫瘍形成が顕著に抑制されることも明らかとなりました。
この研究成果は、タンパク質ホメオスタシスの調節の仕組みを解明しただけでなく、一般に転写調節因子がヌクレオソーム構造をとる遺伝子に結合する仕組みを世界ではじめて明らかにしました。また、HSF1とRPAとの結合を断ち切る化合物の探索により、がんの治療薬の開発に結びつけることができると期待します。本研究は、山口大学研究推進体「ストレス応答と関連した難治性疾患の克服のための戦略」の一環として進められ、米国の科学雑誌『Molecular Cell』(8月30日付け)のオンライン版に掲載されました。
2012年8月28日(火)に記者発表を行い、8月31日(金)に以下の新聞等で報道され、共同通信社の記事が全国ネットへリリースされました。
読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、朝日新聞、中国新聞、山口新聞、宇部日報