脳とこころの発達に重要な因子を発見(高次脳機能病態学分野—医化学分野)
S. Uchida, K. Hara, A. Kobayashi, M. Fujimoto, K. Otsuki, H. Yamagata, T. Hobara, N. Abe, F. Higuchi, T. Shibata, S. Hasegawa, S. Kida, A. Nakai, and Y. Watanabe.
Impaired hippocampal spinogenesis and neurogenesis and altered affective behavior in mice lacking heat shock factor 1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 1681-1686, 2011.
山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学分野の渡邉義文教授、内田周作助教と同研究科医化学分野の中井彰教授らを中心とする共同研究グループが、東京農業大学バイオサイエンス学科の喜田聡教授との連携研究で、脳神経細胞の発達や不安・攻撃性・社交性といった行動の発達に重要な因子を発見しました。精神疾患や神経発達障害の脳の仕組みの解明が期待できる成果です。
人間の脳には膨大な数の神経細胞があり、複雑な神経ネットワークを形成しています。神経細胞の機能を正常に維持するためには、個々の神経細胞内におけるタンパク質ホメオスタシス(恒常性)が重要です。この仕組みに異常が生じると、神経ネットワークが正常に作動しなくなり、行動や記憶形成などの脳高次機能に障害を与えると考えられています。
研究グループは、タンパク質ホメオスタシス制御の鍵となる分子の1つである熱ショック因子(HSF1)をもたないマウスを用いて、このマウスの神経細胞や行動パターンを詳細に観察しました。その結果、HSF1をもたないマウスは、神経細胞の情報を受け取る場(スパイン)の密度が低く、新しく作り出された神経細胞(神経新生)の数は少なくなっていました。また、このマウスは不安行動・うつ様行動・攻撃行動・社交性に異常を認めました。つまり、HSF1によるタンパク質ホメオスタシスは、神経細胞の機能維持と情動行動制御に必須の因子であることが明らかとなりました。本研究により、気分障害や不安障害などの精神疾患の病態解明ならびに治療薬の開発に繋がることが期待できます。
本成果は、2011年1月4日付けの科学誌『米国科学アカデミー紀要』オンライン版に掲載されました。
本研究は、山口大学研究プロジェクト「ストレス応答と関連した難治性疾患の克服のための戦略」の一環として進められました。