臨床心理学における転移(冬ソナにおける転移)

 フロイトが指摘したように、転移とは患者と治療者の関係において、本来は患者において過去の重要な人物に向けるべきものを目の前の治療者に向けるものです。相手を治療者に代えて再体験するものです。境界例のクライエントでよく注目されるのが投影的同一視というもので、同じ母親であっても時には自分によくしてくれる良い母親も悪くする悪い母親もあるが、それらがクライエントの心のなかでほどよい対象として内在化されていないとき、悪い部分を排除しようとしても良い部分へ攻撃してくるような感情にとらわれます。治療者をそのような内的な対象に同一視して攻撃したりするのを投影的同一視と言います。治療者はその対処として、たとえば「先生は私を嫌いと言いましたね」というのに対して「私はそんなこと、言いましたか?」とか答える。そのようにして現実ではそんなことしていないことに気づかせます。それを直面化と言います。(氏原他「心理臨床大辞典」(培風館) 松木邦裕「精神病というこころ」(新曜社) 成田善弘「青年期境界例」(金剛出版)参照)