<研究テーマ>

 1)細胞の恒常性とストレス応答の素過程を構成する分子機構の解明。

 2)細胞の恒常性とストレス応答の素過程が関わる生理機能の解明。

 3)ストレス応答不全疾患の病態改善の試み。

<研究内容と目標>

 我々のからだを構成する細胞は、その構成成分の量や質を安定に保つ恒常性維持の機構が存在する。また、細胞、組織、あるいは個体は、細胞内外の環境変化に対応する恒常性維持の機構を備えている。これらの全ての機構をストレス応答ととらえることができる。近年、多くの生活習慣病や老化と関連した疾患群が、これらストレス応答機構と密接な関連があることがわかってきた。従って、ストレス応答に関わる新たな分子を同定し機能解析する基盤的な研究から、動物モデルを用いた生理機能解析、さらには臨床応用の可能性についての解析にいたるまでの一連の過程に対して、基礎研究と臨床研究の協力体制ならびに臓器別領域を超えた研究協力体制を構築することで、新たな治療法の開発を目指している。

 本研究推進体は、様々な細胞内外の環境ストレスに対する細胞や組織の応答機構を解明することで、それらのストレス応答に関連する疾患の病態を解明し、新たな治療法を開発する組織である。

蛋白質恒常性とストレス応答

カルシウム恒常性と制御機構

脂質恒常性の制御機構

低酸素濃度環境下における生体の恒常性維持機構

<研究の特色>

【医化学分野 中井 彰】

 私たちの体を構成する細胞は、様々な機能を持った蛋白質の社会であり、それらの蛋白質ホメオスタシスを維持することは細胞機能の発現に重要である。その破綻は、老化や神経変性疾患をはじめとする様々な細胞の変性疾患と関連し、がんの発生と維持にも重要な役割を担っている。蛋白質ホメオスタシスの維持に重要なしくみみの1つが熱ショック応答と分子シャペロンであり、熱ショック転写因子群によって制御されている。我々は、この熱ショック応答の生理機能と新しい分子機構を解明することで、難治性疾患群を細胞ストレス応答の視点から解明し、治療法を探りたい。

 

【器官解剖学分野 大和田 祐二】

 脂質恒常性の破たんは、動脈硬化やガンにとどまらず、精神疾患にまで関わることが知られている。我々は、脂質の大部分を占める脂肪酸の機能を調節する分子機構の解明が、各種疾患の病態を考えるうえで重要であると考えている。そこで脂肪酸の細胞内シャペロンである脂肪酸結合タンパク質(FABP)に着目し、遺伝子ノックアウトマウスや培養細胞を用いて、FABPが免疫系や神経系で脂質恒常性を制御する分子基盤について解析を行っている。

 

【病理形態学分野 池田 栄二】

 ヒトの細胞は、低酸素状態にさらされた際に様々な反応を示す。それらの反応は、本来は細胞・組織・生体が低酸素環境においても生存するために備わった代償性機構であるが、一方では虚血性疾患のみならず腫瘍性疾患や代謝性疾患の病態の悪化にも働くことが知られている。本研究では、種々の難治性疾患の病態解明・治療法開発を視野に入れ、低酸素刺激に対する細胞反応機構についての新たな知見を求め研究を進める。

 

【分子薬理学 乾 誠】

1.新たなメカニズムに基づく上皮細胞遊走促進作用を持った創傷治癒促進薬を開発し、角膜潰瘍や皮膚創傷治癒などでの臨床応用を目指している。

2.心筋細胞内Ca2+シグナルの制御蛋白質を標的とする薬物を開発することにより、細胞外から内へのCa2+流入増加を伴わず、弛緩をも促進する新たな心不全治療薬による治療方策の確立することを目指している。

 

 【生体機能分子制御学分野 小林 誠】

 ストレスファイバーは、アクチンフィラメントを主体として構成され、細胞の形態維持や細胞遊走に重要な役割を果たし、癌の転移、血管新生、創傷治癒などの種々の生理的現象や病態に、深く関与していると考えられる。本研究では、ストレスファイバー形成のシグナル伝達機構を解明し、ストレスファイバー形成のシグナル分子が、上記に挙げた種々の生理的現象や病態において、どの様な役割を果たすかを明らかにする事を目指す。

 

【脳神経外科学分野 鈴木 倫保】

 神経系は各種ストレスに対して脆弱である。ストレスが神経機能に及ぼす影響を遺伝子・分子・細胞・動物・臨床レベルで検討し、更にストレスを制御することによって神経保護・機能制御効果を高める方法を探る。

 酸化ストレスと脳血管:くも膜下出血後の生体膜過酸化ストレスの脳血管攣縮への脂質の影響を調べる。

 低温ストレスとneurovascular unit:血液脳関門を温度によって制御する。脳機能を温度によって制御する・保護する

 

【耳鼻咽喉科学分野 山下 裕司】

 内耳感覚細胞は再生しないことが知られており,一旦障害されると難聴・めまいといった機能障害が生涯持続する。そのため,感覚細胞を保護することが臨床的に重要である。我々は,以前より内耳感覚細胞の保護療法の開発を目的として研究を行い,抗酸化剤,熱ショック応答誘導剤等の薬剤が内耳保護効果を有することを基礎研究として報告し,高い評価を得ている。またこれらの研究成果を臨床研究として内耳疾患の治療に応用している。

 

【神経内科学分野 神田 隆】

 中枢神経系、末梢神経系と全身循環系を隔てるinterfaceである血液脳関門(BBB)、血液神経関門(BNB)を分子レベルで解析し、その機能を人為的に改変することで難治性神経疾患の治療に応用しようというプロジェクトを進めています。現在私たちの教室では、ヒトおよびラット由来BBB, BNB構成不死化細胞株がすべて樹立されており、とくにBNBの分子細胞学的研究については世界のトップを走っていると自負しています。

 

【消化器・腫瘍外科 岡 正朗】

 我々は進行肝細胞癌を対象に、プロテオミクス解析のデータベースの中から、免疫原性の証明された腫瘍関連抗原分子としてHeat Shock Protein (HSP)70を標的とし免疫組織染色で肝細胞癌に発現していることを確認後、このtotal mRNAをin vitroにて樹状細胞に導入し、同樹状細胞療法の効果と安全性および免疫反応について検討する。尚、本研究は厚生労働省より認可されている。

 

【眼科学分野 園田 康平】

 角膜の細胞生物学的研究並びに病態研究から角膜の機能や創傷治癒機転を明らかにする。さらに、角膜創傷治癒に対する細胞外マトリックス蛋白質やサイトカインなどの効果の研究から、生理活性物質由来のペプチドによる新たな治療薬の開発を進める。

 

【皮膚科学分野 武藤 正彦】

乾癬ならびに悪性黒色腫特の皮膚疾患の病態解明と治療法の開発。

 

【器官病態外科学 濱野 公一】

虚血性心筋症や閉塞性動脈疾患といった虚血性疾患の病態解明と治療法の開発。

 

【高次脳機能病態学分野 渡邉 義文】

うつ病や統合失調症等の精神疾患の病態解明と治療法の開発。

 

【器官病態内科学 矢野 雅文】

心不全の病態解明と治療法の開発。

 

【細胞シグナル解析学 玉田 耕治】

免疫機構及びその異常の機構解明と治療法の開発。

 

【産科婦人科学 杉野 法広】

性周期異常の病態解明と治療法の開発。